TOPICS国立がん研究センター 橋渡し研究推進センター主催「第3回シーズ開発シンポジウム」開催レポート
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- 国立研究開発法人 国立がん研究センター

第3回シーズ開発シンポジウムでは、「日本発の優れた研究シーズをいかに患者さんへ届けるか」をテーマに、基礎研究から事業化・早期臨床開発までを一貫して支える創薬エコシステムの在り方について活発な議論が行われました。AMED中釜斉理事長からは、日本の強みである基礎研究を実用化へ結び付けるためのエコシステム強化の重要性が示され、国立がん研究センターからはシーズ発掘、スタートアップ育成、グローバル連携、さらには特定臨床研究を活用した早期臨床試験という新たな支援モデルが紹介されました。また、鳥取大学による腫瘍溶解性ウイルスの橋渡し研究や、RI医薬品開発、豪州CTN制度を参考とした新たな臨床開発支援など、実践的な事例も数多く共有されました。日本の創薬競争力向上には、産官学・投資家・規制当局が連携し、世界を見据えたエコシステムを構築することの重要性を改めて実感した一日となりました。
2026年7月、国立がん研究センター 橋渡し研究推進センターが主催する「第3回シーズ開発シンポジウム」が開催されました。「日本発の優れた研究シーズをいかに患者さんへ届けるか」をテーマに、基礎研究から橋渡し研究、スタートアップ創出、早期臨床開発までを一貫して支える創薬エコシステムについて、多彩な講演や事例紹介が行われました。開会にあたり、国立がん研究センター理事長の間野博行氏は、本シンポジウムを通じて、日本発の優れた研究シーズを患者さんへ届けるための議論が深まり、新たな連携につながることへの期待を述べました。
基調講演では、日本医療研究開発機構(AMED)の中釜斉理事長が、日本の医療技術実用化に向けた最大の課題は、優れた基礎研究を実用化へ結び付ける創薬エコシステムの強化であると説明しました。日本は基礎研究や論文成果では世界トップレベルの実績を有する一方、新薬創出や国際共同治験、大学発スタートアップの育成では欧米に後れを取っている現状を紹介。その要因として、大学と企業のニーズの乖離や新規モダリティへの対応、研究開発資金やデータ活用基盤の不足などを挙げました。また、AMEDでは第三期中長期計画のもと、事業間連携の強化や製薬企業の視点を取り入れた伴走支援、グローバル展開を見据えた研究開発、AI・DXの活用などを推進し、日本発の革新的な医療技術を継続的に創出できる環境整備を進めていく考えを示しました。
第1部|橋渡し支援
1-1 国際共同治験ワンストップ相談窓口の紹介 ― ENSEMBLExJ Project ―
国立がん研究センター 都賀 稚香
都賀稚香先生は、厚生労働省「国際共同治験ワンストップ相談窓口事業」として開始した「ENSEMBLExJ」を紹介しました。本事業は、ドラッグラグ・ドラッグロスの解消を目的に、日本国内に開発拠点を持たない海外バイオテックやスタートアップを対象として、日本での研究開発、臨床開発、薬事、事業化までを一体的に支援するワンストッププラットフォームです。国立がん研究センターを事務局として、他のナショナルセンター等、PMDA、製薬企業、CRO、ベンチャーキャピタルなどが連携し、各企業のニーズに応じた支援を提供。「海外バイオテックにとっての日本チーム」として伴走することで、日本市場への参入を促進するとともに、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスの予防まで見据えた創薬エコシステムの構築を目指す取り組みが紹介されました。
1-2 橋渡し研究推進センターの取組紹介 ― 研究シーズ育成と事業間連携の枠組み ―
国立がん研究センター 吉本 光喜
吉本光喜先生は、日本発の創薬における課題として、基礎研究から実用化までには「シーズの見極め」というゲートに加え、「非臨床からファースト・イン・ヒューマン(FIH)」「FIHからPOC取得」「POC取得から事業化」という三つの壁があると説明しました。国立がん研究センターでは、CPOTを通じて有望シーズの発掘・育成を進めるとともに、出口から逆算するバックキャスト型の開発支援により、研究段階に応じた専門機能を提供しています。また、EPOCでは、新規モダリティにも対応できる専門人材が非臨床開発からFIH導入までを支援しており、産官学が連携した創薬エコシステムを通じて、日本発シーズの実用化を加速していく考えが示されました。
1-3 戦略的な事業間連携で挑む次世代腫瘍溶解性ウイルスの橋渡し研究
鳥取大学 中村 貴史
中村貴史先生は、次世代腫瘍溶解性ウイルス「FUVAC121」の橋渡し研究について紹介しました。FUVAC121は、高い腫瘍溶解能に加え、免疫細胞を活性化する機能を備えた新たながんウイルス療法で、投与した腫瘍だけでなく離れた腫瘍にも治療効果が期待されています。現在は、国立がん研究センターの橋渡し支援を受けながら、GMP製造やFIH試験、臨床POC取得に向けた開発を進めており、本年度中のスタートアップ設立も計画しています。大学発シーズを実用化へつなげる、橋渡し研究と事業間連携の実践例として紹介されました。
第2部|スタートアップ支援
2-1 NCC SAP(スタートアップ・アクセラレーション・プログラム)の紹介
国立がん研究センター 佐藤 暁洋
佐藤暁洋先生は、大学発医療系スタートアップを支援する「NCC Startup Acceleration Program(NCC SAP)」について紹介しました。本プログラムは、研究シーズを持つ研究者がスタートアップを設立し、初回の資金調達に到達するまでを対象に、研究費、伴走支援、教育プログラムを提供するものです。将来の医療ニーズを見据えて重点領域を設定し、必要なシーズを発掘・育成する「カンパニークリエーションモデル」と、テキサスメディカルセンター(TMC)と連携したグローバル展開支援が特徴です。専門家やベンチャーキャピタルによる継続的なメンタリングに加え、海外での資金調達や起業を視野に入れた研修を通じて、世界市場で競争できるスタートアップの創出を目指しています。
2-2 事例紹介①:エコシステムのグローバル・リンクとクロスボーダー開発の可能性
公益財団法人がん研究会 石﨑 秀信
石﨑秀信先生は、TMCの教育プログラムに参加して得た知見をもとに、日本の創薬スタートアップが世界で競争するための課題と可能性を紹介しました。プログラムでは、知財、製造、規制対応、資金調達、起業、プレゼンテーションなど、事業化に必要な知識を体系的に学び、特に会社の存在意義を端的に伝えるピッチの重要性を実感したといいます。また、日本では経営人材や海外資本との接点、グローバル事業戦略が不足していると指摘。今後は、日本で研究開発を継続しながら米国で資金調達や事業展開を行うクロスボーダー開発を進め、日米同時開発とドラッグロスの解消につなげる構想が示されました。
2-3 事例紹介②:カンパニークリエーションの実践「ポリフェノール導入高分子/金属イオン錯体DDSを用いた細胞内標的抗体の創製」
東京科学大学 本田 雄士
本田雄士先生は、細胞内標的に抗体を送達する新規DDS「フェノブースト」の社会実装を目指したスタートアップ創出の取り組みを紹介しました。従来の抗体医薬では標的化が難しかった細胞内タンパク質に対し、ポリフェノールと金属イオンを利用した独自技術によって、抗体を細胞質へ送達することを目指しています。NCC SAP採択後は、臨床医との議論を通じて適応疾患を明確化し、ベンチャーキャピタルによるメンタリングや起業家教育を通じて、事業戦略、資金調達、知財、チームづくりを進めてきました。TMCでの研修を機に構想をグローバル展開へと転換し、2027年のスタートアップ設立を目標に、研究開発と事業化を進めています。
第3部|早期臨床開発エコシステム
3-1 早期開発支援窓口の紹介
国立がん研究センター 佐藤 暁洋
佐藤暁洋先生は、国立がん研究センター東病院に新設された「早期臨床導入支援窓口」の構想について紹介しました。新規モダリティの開発が進む一方、動物実験だけではヒトでの有効性や安全性を十分に予測できず、特にスタートアップではFIH(First-in-Human)試験まで到達するための資金や製造コストが大きな課題となっています。そこで、臨床研究法に基づく特定臨床研究を活用し、GMP・GLP要件を合理化しながら早期にヒトへ投与し、安全性やPOCを取得する新たな支援モデルを紹介しました。非臨床・薬事・製造・臨床の専門家が伴走支援を行うことで、期間やコストを抑えながら、日本発スタートアップの早期臨床開発を加速する体制を整備していく考えが示されました。
3-2 特定臨床研究を用いた早期臨床開発
①事例紹介:核医学診療におけるClinical and Translational Scienceの推進
国立がん研究センター 稲木 杏吏
稲木杏吏先生は、RI(放射性同位元素)医薬品の早期臨床開発の実践例を紹介しました。RI医薬品は、診断と治療を同一リガンドで行う「セラノスティクス」が特徴で、世界的に開発が進む一方、日本では規制や開発体制の複雑さが課題となっています。そこで、米国のRDRC制度を参考に、特定臨床研究を活用したマイクロドーズ試験により、ヒトでの体内分布や薬物動態を早期に評価する仕組みを構築。ペプチドリーム社との共同研究では、動物実験では得られないデータを取得し、その後の治験設計につなげるなど、日本発RI医薬品の開発を加速する新たなトランスレーショナルリサーチの取り組みが紹介されました。
②事例紹介:海外制度を参考とした早期臨床開発の在り方
国立がん研究センター 高橋 秀明
高橋秀明先生は、豪州のCTN制度を参考に、日本で早期臨床試験を迅速かつ低コストに実施するための新たな支援プログラム「TAP(Tuning and Acceleration Program)」を紹介しました。豪州では、倫理審査を中心に臨床試験を開始できる制度により、スタートアップによるフェーズ1試験が活発に行われています。日本でも、特定臨床研究や再生医療等安全性確保法を活用することで、早期のヒト投与データ取得が可能になると説明。その上で、安全性や品質を担保するためには、毒性・品質・製造・薬事の専門家による事前評価と伴走支援が不可欠であるとし、日本発シーズを迅速に患者へ届けるための新たな開発支援体制について紹介しました。
本シンポジウムでは、基礎研究から橋渡し研究、スタートアップ創出、早期臨床開発まで、日本発シーズを患者さんへ届けるための実践的な取り組みが数多く紹介されました。柏の葉ライフサイエンスフロンティアでは、国立がん研究センターを中心に、産学官や投資家、規制当局が連携する創薬エコシステムの構築が進められています。柏の葉から世界へ向けた医療イノベーションの創出に、今後も期待が高まります。
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