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TOPICSMOFの液相分離への応用に挑む東京大学発スタートアップ ―MOFgraphyが切り拓く、次世代の分離技術―

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  • 東大柏ベンチャープラザ

左から、株式会社MOFgraphy細野暢彦氏、隅田健治氏

二酸化炭素回収や水素・メタンガス貯蔵などの分野で、次世代のガス吸着材として注目を集めるMOF(Metal-Organic Framework:金属有機構造体)。2025年にノーベル化学賞の対象となり、現在、世界中で研究開発が進められています。その多くが気体を対象とする中、液相分離への応用に挑むのが東京大学発スタートアップ、株式会社MOFgraphyです。MOFの高い設計性を生かし、次世代クロマトグラフィー技術の実現を目指す同社 代表取締役CEOの隅田健治氏と、取締役CSOの細野暢彦氏に、創業の経緯や技術の独自性、柏の葉を拠点とする理由、事業の展望についてお話を伺いました。

MOFの液相分離への利用を事業として手がけるベンチャーは、世界を見渡しても見当たらない

――MOFgraphyを立ち上げた経緯を教えてください。
隅田氏:
私は、アメリカのカリフォルニア大学・バークレー校(UC Berkeley)の大学院時代からMOFの研究に携わり、その後、京都大学の北川進教授の研究室で2012年頃からポスドクとして研究を続けてきました。さらに、オーストラリア・アデレード大学では独立した研究者としてMOFの研究に従事した後、北川教授の研究を基盤に設立されたスタートアップ・株式会社Atomisに参画し、約3年間、執行役員CSO(Chief Science Officer)を務めました。2023年11月に退職しましたが、現在も社外アドバイザーとして同社に関わっています。
Atomisではガスの吸着・貯蔵・分離を中心としたMOFの社会実装に取り組み、基礎研究から実装・量産へと展開するプロセスを経験しました。一方で、MOFには液相分離という未開拓の可能性があることを以前から感じていました。そこで、研究室時代からの仲間であり、スタートアップに関心を持っていた細野と新たなビジネスの可能性について議論を重ね、2025年10月にMOFgraphyを設立しました。
細野氏:
世界的に見ても、MOFの実用化研究はガスの貯蔵や分離を中心に進められています。しかし、MOFを用いて有機化合物やポリマーなどの分子を対象とする分離技術に取り組むベンチャーは、私たちが把握する限り存在していません。
近年、大学で研究を続けながら、スタートアップの立ち上げや事業化にも積極的に関わる風土が醸成されてきたことも、起業を後押ししたと思います。

対象分子の多様性が広げる、液相分離の可能性

――MOFgraphyならではの独自性は、どこにあるのでしょうか。
隅田氏:
私たちのミッションは、液相中に存在する目的物質を高い選択性で分離・回収し、医薬品や機能性材料などの開発・製造をより効率的で持続可能にすることです。液相分離では、対象となる分子や溶媒の種類が非常に多く、ガス分離に比べても技術的な難易度は高くなります。一方で、その複雑さゆえに、材料設計や液相分離についてのノウハウの蓄積が大きな競争優位性につながると考えています。今後1〜2年は、さまざまな企業との対話や共同研究を通じて、どのような課題にMOFが価値を発揮できるかを一つひとつ検証しながら、技術を磨いていきたいと考えています。

――なぜMOF研究はガス分離を中心に発展してきたのでしょうか。
細野氏:
一つは、ガスの評価方法が早くから確立されていたことです。MOFにガスを吸着させ、その性能を評価する手法は以前から整備されていました。さらに、二酸化炭素回収や水素貯蔵といった社会課題とも結びついたことで、世界中で研究が一気に進展した背景があると考えています。
もう一つは、「液体ではMOFはうまく機能しないのではないか」という先入観があったことだと思います。ガス分離で対象となる分子に比べ、液相には非常に多様な分子が存在します。対象となる分子の種類が圧倒的に多いからこそ、液相分離には次世代の技術として大きな可能性があると考えています。

「わずかな違い」を見分ける 中分子医薬・核酸医薬への応用

――柏の葉はライフサイエンス分野の研究開発も盛んです。医療・創薬分野において、MOFにはどのような活用の可能性があるのでしょうか。
細野氏:
医薬品のように高付加価値な物質ほど、MOFの強みを生かせると考えています。創薬プロセスで用いられる化合物や原薬に至る前段階の中間体には、少量であっても非常に高い純度が求められます。こうした物質の精製・分離に、MOFは非常に向いています。
特に注目しているのが、中分子医薬です。合成ペプチドはアミノ酸を一つひとつつないで作ります。その過程では、アミノ酸が目的の長さまでつながらず一つ少ないものや、逆に一つ多いものなど、目的物とはわずかに異なる分子が生じることがあります。こうした「ほんの少しだけ違う分子」を分離することは、既存の先端技術を持ってしても難度が非常に高い課題です。
核酸医薬にも同じような課題があります。合成過程で生じる鎖長や立体構造の違いなど、極めてわずかな差を持つ分子が混在するためです。まさに、その「わずかな違い」を見分けることが求められている分野だと考えています。

分子単位で識別するMOFの細孔設計

――具体的には、どのように識別するのでしょうか。
細野氏:
私たちが開発しているMOFは、分子を取り込むことができる微細な細孔を持っています。ペプチドや核酸のような鎖状の分子を細孔の中に取り込むことで、末端構造や化学構造のわずかな違いを識別できる可能性があります。
例えば、末端のアミノ酸が一つ異なる場合や、分子の一部だけ構造が異なる場合、あるいは、シス/トランスなどの立体異性の違いがある場合です。
従来の分離技術は、そのどれもが分子全体の性質や大きさの違いで識別し、分離するものがほとんどです。もちろん、それらは時に極めて強力で高効率であり、現在も我々の生活を豊かにする様々な分離や分析技術に大きく貢献しています。しかし、「大きな化合物の小さな違いを見分ける」ことは難しく、原理上の課題として残されていました。
私たちは、大きな分子を一括して識別するのではなく、MOFの細孔に取り込んで「ひとつずつ識別する」という発想で技術開発を進めています。そういう意味で、中分子医薬は非常に魅力的なターゲットだと考えています。

「何でも分ける」のではなく、「分けたいものを分ける」

――MOFgraphyでは、MOFをクロマトグラフィーカラムとして開発されています。従来のカラムとはどのような違いがあるのでしょうか。
細野氏:
私たちはMOFをカラムに充填し、クロマトグラフィーの固定相として利用しています。そのため、分離・精製だけでなく分析にも使うことができます。
MOFの大きな強みは、目的物質に応じて材料そのものをカスタマイズできる点です。一般的なクロマトグラフィーカラムには、一本で幅広い化合物に対応できる汎用性があります。一方、MOFカラムでは、「この化合物を分けたい」という目的に合わせて、材料を設計することができます。
目的物質に合わせて、細孔の大きさや化学的な性質をデザインできるため、従来の手法では難しかった物質にも対応できる可能性があります。

――どのような場面で、その強みを発揮できるのでしょうか。
細野氏:
お客様からご相談いただくのは、「分けたいものは分かっているが、どうしても分けられない」というケースが多いですね。
例えば、「二つの化合物がどの程度混在しているのかを知りたい」「目的物だけを取り出したい」といった課題です。そうした相談に対して、「このMOFなら分離できるかもしれません」「このような設計をすれば、性能を高められるかもしれません」と提案ができる点が私たちの強みです。
一般的な汎用カラムでは、個別の分離対象に合わせて固定相そのものを設計することは多くありません。目的物質に応じてカラムの材料を設計できる点がMOFgraphyの技術的な特長だと思っています。

分離ニーズは、企業との対話から見えてくる

──東大柏ベンチャープラザへの入居を決めた理由を教えてください。
隅田氏:
以前から東大柏ベンチャープラザには関心をもっていましたが、当初は空きがありませんでした。法人設立後しばらくは東京大学を拠点に事業基盤の確立を進めていましたが、会社として継続的に事業を展開していくためには、自社で自由に研究開発を行えるラボが必要だと考えていました。
ちょうどそのタイミングで空きが出たため、迷わず入居を決めました。東京大学柏キャンパスや東葛テクノプラザに近く、スタートアップや研究機関との連携機会にも恵まれていることに加え、将来的な顧客候補となる企業との接点も築きやすい環境です。さらに、つくばエリアへのアクセスにも優れており、研究開発と事業開発の両面で大きなメリットがあると考えています。

──柏の葉という環境には、どのような魅力を感じていますか。
隅田氏:
私たちは、MOFという基盤技術を、バイオや食品、環境など幅広い分野へ展開していきたいと考えています。
一方で、企業が実際に抱える課題やニーズは、論文や市場調査だけでは十分に把握できません。学術的な視点から課題を予測することはできますが、本当に価値のあるソリューションを生み出すためには、企業の方々と直接対話し、それぞれの現場で何が課題になっているかを理解することが不可欠です。
柏の葉には、多様な企業や研究機関、スタートアップが集積しており、そうした対話や新たな共同研究の機会に恵まれています。技術を磨くだけでなく、市場のニーズを深く理解しながら事業を成長させていける環境であることが、この地域の大きな魅力だと感じています。

柏の葉の支援ネットワークを成長の力に

──この柏の葉エリアやベンチャープラザにはどのようなことを期待されていますか。
隅田氏:
スタートアップが成長していくためには、技術だけでなく、人や資金、事業開発など、さまざまな面での支援が欠かせません。
柏の葉では、共同研究の機会に加え、ベンチャーキャピタルとの接点づくりや資金調達に関するアドバイスなど、成長を後押しする支援を受けられることを期待しています。また、会社のフェーズが進むにつれて、人材採用や組織づくり、バックオフィス体制の整備など、新しい課題も生じてきます。そうした課題についても、インキュベーターマネージャーをはじめとする多くの方々と相談しながら、一つひとつ乗り越えていける環境があることは大きな魅力です。柏の葉のネットワークを積極的に活用しながら、着実に会社を成長させていきたいと考えています。

データに基づく意思決定を支える、技術パートナーへ

──中長期的には、どのような会社を目指していますか。
隅田氏:
私たちは、お客様にとって信頼できる技術パートナーでありたいと考えています。MOFという技術に興味を持っていただいても、「本当に自社の課題に適用できるのだろうか」と不安を感じる企業は少なくありません。
だからこそ、私たちは実験データに基づいて、「この用途であれば十分に可能性があります」「この条件では難しいかもしれません」と率直にお伝えしたいと考えています。実現可能性をできるだけ早い段階で見極めることで、お客様が有望なテーマに集中し、研究開発や事業開発を効率よく進められるよう支援することが、私たちの役割だと考えています。
私も細野も研究者としてキャリアを積んできました。その経験を活かし、得られたデータを客観的に分析・評価し、お客様の意思決定を支える存在であり続けたいと思っています。

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