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TOPICSJ-ACT参加者インタビュー Vol.2 宮本寛子氏「事業化までの“地図”を手に入れた」

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  • 国立研究開発法人 国立がん研究センター
  • 三井不動産株式会社

国立がん研究センター(NCC)、三井不動産、Texas Medical Center(TMC)Innovationの連携による、米国でのがん治療薬開発を目指すアクセラレータープログラム「Japan Accelerator for Cancer Therapeutics(J-ACT)」。第1期の参加者4名は、約7カ月にわたるプログラムを経て、9月30日にヒューストンで開催された「Investor Day」で投資家向けピッチに臨みました。

本インタビューでは、参加者一人ひとりに、J-ACTを通じて、研究開発の成果を事業化へとつなげるために何を学び、どう動き始めたのかを伺います。第2回は、脂質を使わない独自のナノ粒子「RION」で核酸医薬を腫瘍へ届ける技術の開発に取り組む、愛知工業大学の宮本寛子氏です。

宮本 寛子(みやもと のりこ)
愛知工業大学 工学部 准教授
同学部 助教、講師を経て現職。脂質を使わず核酸そのものをナノ粒子化するデリバリー技術「RION」の開発に取り組み、2024年度にNCC Seed Acceleration Program(NCC SAP)に採択。2026年7月、AMED主催「第1回S0コンテスト」で優秀シーズに選出。

――まず、研究内容について教えてください。
核酸医薬は、遺伝子の働きを塩基配列レベルで制御できる医薬品として期待されていますが、有効成分を目的の臓器や細胞へ効率よく届ける技術が大きな課題になっています。現在広く使われている脂質ナノ粒子(LNP)は、投与すると多くが肝臓に集まってしまい、腫瘍へ届けるのが難しいのです。

そこで私は、脂質を使わず、核酸そのものをナノ粒子化する独自の技術「RION」を開発しました。RIONは肝臓への集積を避け、腫瘍に集まりやすい特徴を持っています。現在は、複数のタンパク質やシグナル経路を同時に制御できるmicroRNAをRIONで腫瘍へ届けることで、KRAS変異大腸がんを対象とした核酸医薬の開発を目指しています。

宮本寛子氏|TMC Innovation主催「Therapeutics Summit」でのピッチ発表

――J-ACTに応募されたきっかけは何だったのでしょうか。応募当時、課題を感じていたことがあれば教えてください。
実は、あまり細かく考えていたわけではないんです。J-ACTの募集があった際に「こういうプログラムがあるけれど、やってみる?」と声をかけていただいて、「やってみます」と。私の研究は応用研究に近い分野で、研究成果を実際に応用につなげたいとずっと思ってきたので、挑戦してみたいという気持ちはありました。

ただ、当時は「創薬をやるぞ」とスタートラインに立ったものの、その先に何が待っているのかはまったく見えていませんでした。まさか、ここまで多くのことを学べるとは思っていなかったです。

――J-ACTを通じて、事業化に対する考え方や取り組み方にどのような変化がありましたか。
一言で言うと、事業化までの「地図」を手に入れた感覚です。J-ACTに参加して、先を照らしてくれる人たちに出会い、進むべき道が見えるようになりました。実際にゴールにたどり着いた人たちの話も聞けて、さらにその先まで見通せるようになった。もちろん、実際にどんな問題があるかは進んでみないとわかりません。それでも、一般論として話を聞くのとは違い、実際にその道を歩いたことがある人たちから地図の作り方を学べたことで、解像度の高い地図になったと思います。

価値の伝え方も変わりました。日本では技術をベースに説明した方が納得してもらえる印象がありますが、米国では、その技術が世の中にどのような価値をもたらすのかが重視されていると感じました。ピッチの準備では、多くの方に関わっていただきながら、伝えたいことをシンプルにし、不要なものをそぎ落としていきました。その過程で、自分がやるべきことも明確になったと思います。

――ヒューストンでの現地プログラムを含め、特に印象に残った学びや、その後実際に取り入れたことを教えてください。
現地プログラムの序盤に、March BiosciencesのCEO、Sarah Heinさんが「アイデアを持つことより、それを実際に形にしていくことの方が難しい」という趣旨のことをおっしゃっていて、ハッとしました。難しいところこそ、やり切らなければいけないんだと。セミナーでは、TPP(ターゲット・プロダクト・プロファイル)の重要性や、ゴールから逆算して考えることも繰り返し教わり、戦略的な考え方が身につきました。

もう一つは、「完成度が80%でも前に進めなければいけない」という言葉です。日本人はこだわりすぎて遅くなってしまうところがあるので、早く前に進めるために、日本でCROを見つけて開発を始めました。

――米国のベンチャーは、とにかくスピード重視ですよね。日本なら半年、1年かけて突き詰めるところを、3カ月ほどで見切りをつけて、まず人で確かめる。医薬品は、最初に承認されたものが市場を押さえる世界ですからね。
そのお話で思い出しましたが、Modulus Discovery共同創業者のRoy Kimuraさんによる、日本と米国の違いについてのお話も印象的でした。意思決定の仕方も、スピードも、会議で重視されることも、リーダーの考え方も違う。日本では合意を得たうえで一つずつ進めていく会議が多いですが、米国では課題が出てくる会議がいい会議とされる。そうした文化を知ったうえで米国で開発しなければいけないし、日本のやり方にも良い面と悪い面があるのだと気づかされました。

現地に一度足を運んだことも大きかったです。その後オンラインで参加したときも、建物や会場の様子が目に浮かぶので、肌感覚でわかる。EIR(Entrepreneur in Residence)の方々からは、専門家ならではの経験に基づいた的確な意見をたくさんいただきました。

――米国での事業展開を考えるうえで、具体化したことや、新たに見えてきた課題はありますか。
一番の課題は、米国市場での開発を目指すうえで、どの段階で、どのように会社を設立するかです。研究面での改良のアイデアはいくらでも出てきますが、実際の開発やビジネスでは、投資を受けるための「箱」が必要になります。それを日本に置くのか、米国に置くのか、両方なのか。どちらが先か、誰が加わってくれるのか。そこはまだ見えていません。

臨床開発の戦略をゴールから逆算して描くことも、まだ十分にはできていないと感じています。どの製薬企業が買ってくれる技術なのか、そのためにどのようなデータを積み上げるべきか。メンターの方々からは、現在の計画の課題を具体的に指摘していただき、開発の進め方を一度見直す必要があるとも感じました。一方で、最低限必要なデータが何かは明確になったので、そこに向けて進めています。

――事業化に向けた研究は、論文を重視するアカデミアの研究とは目指すものが異なります。そこに葛藤を感じることはありませんか。
特にフラストレーションはありません。論文はもちろん書きますが、所属先は論文をたくさん書くよう強く求められる環境ではないので、今進めているプロジェクトを優先できています。

――J-ACTでの経験を踏まえ、今後どのようなステップで事業化・米国展開を進めていきたいと考えていますか。
米国展開は目指したいと考えていますが、すぐにビジネスができる段階にはまだ来ていません。見えてきた課題を、スピード感を持って一つずつクリアしていくことがまずは大切だと思っています。大変だと思いつつも、一歩ずつ進んでいくつもりです。

開発の体制についても、必ずしも最初から多くの人を雇う必要はなく、外注を活用しながらコンパクトに進める方法もあるとアドバイスをいただきました。資金繰りに苦労しないためにも、そうした進め方を検討していきたいと思います。

――最後に、今後J-ACTへの参加を検討している方へメッセージをお願いします。
ぜひ参加した方がいいと思います。きっと変わります。日本にいるだけでは限られた情報で進めることになりますが、それが大きく広がります。しかも、ただ情報が多いのではなく、専門家が選んでくれた情報を直接聞いて、肌で感じられる。自分で手探りで進むのとは大きく違うと思います。地方から参加させていただきましたが、こんなプログラムに参加できるとは思っていなかったので、本当にいい機会をいただきました。

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