柏の葉×ヒューストン連携|J-ACT第1期参加者4名、ヒューストンの「Investor Day」でピッチ登壇 開催レポート
TOPICSJ-ACT参加者インタビュー Vol.3 本田雄士氏「見えない壁は、人に相談すれば取り払われる」
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- 国立研究開発法人 国立がん研究センター
- 三井不動産株式会社

国立がん研究センター(NCC)、三井不動産、Texas Medical Center(TMC)Innovationの連携による、米国でのがん治療薬開発を目指すアクセラレータープログラム「Japan Accelerator for Cancer Therapeutics(J-ACT)」。第1期の参加者4名は、約7カ月にわたるプログラムを経て、9月30日にヒューストンで開催された「Investor Day」で投資家向けピッチに臨みました。
本インタビューでは、参加者一人ひとりに、J-ACTを通じて、研究開発の成果を事業化へとつなげるために何を学び、どう動き始めたのかを伺います。第3回は、抗体を細胞の内側へ届けるデリバリー技術の開発に取り組む、東京科学大学の本田雄士氏です。
本田 雄士(ほんだ ゆうと)
東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所 助教
2022年、東京工業大学 生命理工学院 助教に着任し、現職。ポリフェノール高分子と金属イオンからなるナノ粒子を用いて、抗体を細胞内へ届けるデリバリー技術の開発に取り組み、2025年度にNCC Seed Acceleration Program(NCC SAP)に採択。
――まず、研究内容について教えてください。
抗体医薬の市場は非常に大きいのですが、現在の製品のほとんどは、がん細胞の表面にある抗原を標的にしています。がん細胞の内側には、既存の低分子医薬や抗体医薬では阻害できない「がんドライバー」が数多く存在します。ところが抗体は細胞に取り込まれにくく、取り込まれてもエンドソームに閉じ込められてしまうため、細胞内の標的にはなかなか届きません。
私が開発しているのは、ポリフェノール高分子と金属イオンからなるナノ粒子に抗体を内包し、細胞の中へ届ける技術です。がん細胞に取り込まれた後、エンドソームの膜を壊して抗体を細胞質へ放出します。抗体と材料を水中で混ぜるだけで簡便につくれるのも特徴です。細胞内の抗原を標的にできるようになれば、これまで治療が難しかったがんに新しい選択肢をもたらせると考えています。
――J-ACTに応募されたきっかけは何だったのでしょうか。応募当時、不安を感じていたことがあれば教えてください。
正直に言うと、紹介していただいたことが一番大きな理由です。ただ、米国のエコシステムを知る機会はなかなかありません。私の研究はまだアーリーステージですが、この段階で知っておけば、臨床開発までの課題を減らし、限られたリソースを集中させて臨めるのではないかと考えました。
不安もありました。4月に2週間、9月に1週間という現地プログラムは負担もありますし、英語が決して得意ではないので、コミュニケーションがきちんと取れるか、講義の内容を理解できるかは心配でした。
――J-ACTを通じて、事業化に対する考え方や取り組み方にどのような変化がありましたか。
抗体を細胞の中に運んで治療するというアプローチは、製薬企業を含めてほとんど取り組んでいる人がいません。そのため、この技術がどこまで受け入れられるのかがわからない、という思いがずっとありました。日本でVCの方や製薬企業の方に話しても、「面白いね」とは言っていただけるものの、それ以上の具体的な話にはなかなか進まず、反応がポジティブなのかネガティブなのか判断しづらかったんです。
ところが米国に来ると、質問をどんどんいただくことが本当に多かった。この技術は聞く価値がある、興味を持ってもらえる価値があるものなんだと実感できたのは大きかったです。製薬企業の方々と話す中では、核酸を運べないかという声が一番多く、企業が持つ核酸やADC(抗体薬物複合体)などのポートフォリオにプラスアルファできる技術に関心が集まりやすいこともわかりました。そのうえで、私としては抗体を運びたい。米国での1on1では、それをどう発展させられるかを一緒に考えてくださり、ネットワークを使って「こういうところに相談してみては」と具体的に提案していただきました。技術に自信を持てたことと、どう進めていくかの道筋が見えてきたことが、一番の変化です。
もう一つは、スピードに対する考え方です。自分たちで技術の価値を高めていくことはもちろん大事ですが、米国では、多少の価値の希薄化は仕方ないとして、とにかく早く進めることを重視していると感じました。まさに「Time is Money」の考え方が強い。日本と米国の違いだと思います。

――ヒューストンでの現地プログラムを含め、特に印象に残った学びや、その後実際に取り入れたことを教えてください。
VCの立場のメンターとの1on1では、事業をどう発展させ、どう付加価値をつけていくか、そのためにどんなデータがあるとよいかを一緒に考えていただきました。また、EIR(Entrepreneur in Residence)の方とは日本に帰ってからも2〜3回1on1をさせていただき、この技術がほかと違うことを示すにはどのようなデータセットを取るべきかを、科学の視点から具体的にアドバイスいただきました。ビジネスとサイエンス、それぞれの視点からの助言を得られたのは、本当に良かったです。
オンラインの講義では、臨床試験に進んでから問題が見つかると修正に莫大なコストがかかるため、今のうちにスモールスケールでリスクを潰しておくべきだという話が、とても具体的で印象に残っています。再現性や、そもそも標的が合っているのかといった、ある意味当たり前のことです。ただ、私の技術のようにプラットフォームに近いものは、「いけるでしょう」と進めてしまいがちです。そうではなく、仮説をきちんと立てて一つずつ検証すべきだと教わりました。初期段階で答えておくべき問いを論理的に整理する方法も学び、なんとなくわかっていたことを、説得力のある言葉に落とし込めるようになりました。

――新しいアプローチだからこそ、送達効率などの指標も自ら定めていく立場にあるのではないでしょうか。
具体的な数値目標について直接の助言があったわけではありませんが、一つひとつ「なぜそれをやるのか」を確立させていくことの大切さは教わりました。どの程度の送達効率を目指すべきかも、これまでは感覚的にしか考えていなかったので、具体的に考えられるようになったのは良かったです。
実は一番大きかったのは、「やらなければいけない」とわかっていることと、それを実行に移すことの間にあるギャップが埋まったことかもしれません。どうやって進めればいいのか、その方法で合っているのか。研究で忙しい中、そのギャップを自分だけで埋めるのは大変です。1on1や講義の中で、誰に相談すればいいか、どんな手段があるかを具体的に教えていただけたので、「やってみよう」と思えるところまで進めました。どこは実データを取るべきで、どこは仮説の整理まででよいのか。研究者だけでは判断しきれない部分に助言をいただけたことで、今何を優先すべきなのかも明確になりました。
具体的な行動としては、日本でCROを探し始めています。早めに相談先を見つけて、課題を洗い出しておこうと考えました。以前は、もう少し後のステージになってから外部と話した方がいいと思っていたんです。でも米国で話してみると、アーリーステージでも皆さん意外とウェルカムで、話を聞いてくれる。自分の中にあった見えない壁が消えて、動きやすくなりました。どこまで情報を開示してよいかも、メンターに相談しながら進められました。
――米国での事業展開を考えるうえで、具体化したことや、新たに見えてきた課題はありますか。
資金がどれだけ必要になるのか、そのリアルさは正直わかってきました。スタートアップが失敗する原因の多くは資金の枯渇です。だからこそ、まずどの国で会社をつくるのかは、とても考えさせられました。
会社をどこにつくるかは、正直まだ決めきれていません。いろいろ知ったからこそ、それぞれに良い面と悪い面があるとわかったからです。日本にも、ある程度資金を獲得できる環境がありますし、First-in-Human試験に向けて関係者とコミュニケーションを取りながら進めやすい面もあります。以前は単純に米国の方がいいと考えがちでしたが、そういうわけではない。日本で進めていくことも十分にありだと、今は強く思っています。
――J-ACTでの経験を踏まえ、今後どのようなステップで事業化・米国展開を進めていきたいと考えていますか。
日米それぞれの良い面と課題を踏まえて、会社をどこに設立するかを考えていきます。並行して、CROなど外部の方々との対話を早い段階から進め、技術の差別化を示すためのデータや、臨床に進む前に検証すべきことを一つずつ固めていきたいと考えています。
――最後に、これから同じような挑戦を目指す研究者へのメッセージをお願いします。
自分の中の「見えない壁」は、知らず知らずのうちにできてしまうものだと思います。でも、人に相談していくと、意外と取り払われることが多いんです。だからこそ、限界を決めずに、ぜひ挑戦してほしいと思います。

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