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TOPICS研究成果を、地域の日常へ。 ウェアラブルデバイスと生成AIで拓く、柏の葉発の健康支援

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  • 三井不動産株式会社

東京大学 久恒辰博先生

東京大学大学院新領域創成科学研究科の久恒辰博氏は、三井不動産、日本ハム、Googleなどと連携し、柏の葉をフィールドに、ウェアラブルデバイス「Fitbit」で取得した活動データを活用し、運動や食事などの生活習慣の改善を促す健康支援の研究を進めています。355人が参加した約6カ月にわたる研究の成果をまとめた論文が国際医学誌「eClinicalMedicine」に採択されたことを受け、久恒先生にお話を伺いました。研究を論文で終わらせず、柏の葉から日常生活へ社会実装し、将来はシニアから現役世代まで広げていく――デジタルヘルスの新たな可能性が見え始めています。 

地域で暮らす人とともに、研究成果を社会へ

――今回の研究に取り組まれた背景を教えてください。
久恒先生:

高齢化が進む日本では、認知機能の低下を含め、高齢者の健康をいかに長く維持していくかが大きな社会課題になっています。私はもともと動物を対象とした基礎研究を行っていましたが、研究成果を実際に社会へ還元するためには、地域で暮らす高齢者の方々と一緒に研究を行いたいと以前から考えていました。過去には小平市の研究所などでも研究を行いましたが、大学から離れた場所で長期間研究を続けることには大きな負担があります。その点、柏の葉には高齢者研究の蓄積と地域住民とのつながりがあり、大学の近くで住民の皆さんと継続的に研究できる環境が整っていました。私にとって、まさに理想的な研究フィールドだったのです。

柏の葉だから実現した、産学連携の研究フィールド

――なぜ柏の葉で研究を行うことになったのでしょうか。
久恒先生:

柏の葉には、東京大学の高齢社会研究の蓄積に加え、三井不動産をはじめ地域のさまざまな主体が高齢者の健康づくりに取り組んできた土台があります。Fitbitについても、研究開始以前から地域の方々に馴染みがありました。2018年頃から三井不動産と研究を始め、その後、日本ハム、Googleなどが加わり、産学が連携する形へと発展していきました。研究だけのためにつくられた環境ではなく、実際に人々が暮らす街の中で研究できることが柏の葉の大きな強みだと思っています。

355人の生活データに働きかけ、行動変容につなげる

――今回の研究では、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。
久恒先生:

研究は2021年頃から計画を始め、実際の介入は2023年11月から2024年6月にかけて約6カ月間行いました。355人から研究を開始し、Fitbitなどを活用して日々の活動を把握しながら、運動や食事など生活習慣の改善を促しました。参加者には、例えば「運動が足りません」「たんぱく質が不足しています」といった、その方の状態に応じたメッセージを週1回SMSで送りました。単にデータを集めるだけではなく、データを本人にフィードバックして、実際の行動変容につなげようとしたことが特徴です。
人を対象とする研究では、半年間すべての参加者が同じように取り組み続けるわけではありません。最初は355人でスタートしましたが、途中で研究から離れる方もいます。最後までしっかり取り組んだ方だけを分析すれば良い結果が出やすい一方、それだけでは実社会での効果を正しく評価したことになりません。
そこで今回、途中で離脱した方も含めて評価するなど、国際的な研究基準を意識した厳密な解析を行いました。研究室で行う基礎研究とは異なる、「人間をデータとしてどう科学的に捉えるか」という難しさを強く感じた研究でもありました。

研究で見えてきた、運動を「続ける」ことの重要性

――研究から、どのようなことが見えてきましたか。
久恒先生:

生活習慣への継続的な働きかけによって、参加者の行動に変化が見られました。特に大きかったのは運動です。定期的にフィードバックを送り続けることで、運動を継続するきっかけになり、結果として運動に関する指標も改善しました。認知機能との関係についても、今回の結果を見る限り、生活習慣への介入の中では運動が重要な役割を果たした可能性があると考えています。ただし、食事など他の要素の影響もあり、どの要因がどの程度寄与したのかについては、今後さらに解析していく必要があります。

食事とウェアラブルを組み合わせた複合的なアプローチ

――食事やFitbitなどのウェアラブルデバイスには、どのような意味があったのでしょうか。
久恒先生:

日本ハムにご協力いただき、研究用に食品を用意して参加者に継続的に提供しました。食品そのものの効果についてはさらに解析する必要がありますが、「定期的に食品を受け取れる」ことが参加者のモチベーション維持につながった可能性もあります。また、Fitbitの価値は単にデータを測ることではありません。自分の運動量などを継続的に把握し、それに基づいて適切なタイミングで働きかけることで、健康行動を続けやすくなる点にあります。今回、6カ月という期間で一定の結果が得られた背景には、運動への働きかけだけでなく、食事を含めた複合的なアプローチがあった可能性があります。

定型SMSから、生成AIとの「対話型の健康支援」へ

――現在は生成AIを活用した研究へ発展しているそうですね。
久恒先生:

定型的なメッセージには限界もありました。同じようなメッセージが繰り返し届くため、「だんだん飽きてきた」という声もありました。そこで現在は、基本となる健康情報を生成AIに与えた上で、一人ひとりとの会話に応じて表現や内容を変える研究に発展させています。運動の相談から始まった会話が、家族や孫の話、さらには悩み相談にまで広がるケースもあります。AIと一日に何十往復も会話する参加者もおり、単なる「健康情報の通知」から「対話型の健康支援」へ変わる可能性を感じています。高齢者にとって社会的孤立も重要な健康課題です。生成AIとの対話が健康行動だけでなく、コミュニケーションという面でどのような意味を持つのかも検証していきたいと考えています。

研究を論文で終わらせない。柏の葉から社会実装へ

――研究成果を地域へ社会実装していくためには、何が必要でしょうか。
久恒先生:

そこが一番難しいところです。研究として効果を示すことと、それを日常生活の中で継続できるサービスにすることは別の課題です。例えば、Fitbitによるデータ取得、健康への働きかけ、食品の提供などを、柏の葉の「スマートライフパス」のような地域の仕組みと結び付けることができれば、研究参加者だけでなく、より多くの住民に届けられる可能性があります。研究成果を論文で終わらせず、地域の日常の仕組みにどう組み込むかを考える必要があります。

シニアから現役世代へ。柏の葉をモデルケースに

――今後、どのような形に発展させたいと考えていますか。
久恒先生:

まずは柏の葉で社会実装の形をつくることが一つの目標です。ただ、対象をシニアだけに限定する必要はないと思っています。ウェアラブルデバイスを使った健康支援は、健康経営との親和性も高い。将来的にはプレシニアや現役世代にも広げ、女性の健康、ストレス、高血圧、糖尿病など、さまざまな健康課題に応用できる可能性があります。柏の葉を一つのモデルケースとして、世代や疾患を越えて、デジタル技術を日常の健康づくりにつなげていければと考えています。

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