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TOPICS【ヒラソル・エナジー株式会社 李 旻様】「100年続く太陽光発電」を目標に、 設備の維持・管理に革新をもたらす

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  • アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)

ヒラソル・エナジー株式会社

李 旻さんと、ヒラソル・エナジーでビジネス・オペレーション・リードを務める畔上兼一さん(写真手前)。東京大学本郷キャンパス内のオフィスの屋上には、試験用の太陽光パネルが設置され、データの収集と解析を行っています

持続可能な社会の実現に向けて、太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーへの切り替えは急務となっています。日本の電力構成の中で太陽光発電が占める割合は2016年には約1%でした。しかし、この割合を2030年に7%、2050年には20%に高めようという目標が設定されています。太陽光発電設備が増えれば増えるほど、維持管理が問題になります。従来はパネル1枚ごとの性能低下を検知することは難しく、手間やコストがかかっていました。ヒラソル・エナジーは、送電線を使ってデータを送り、太陽光発電設備の保守点検・維持管理の人手や手間、コストを大幅に削減できる画期的な新技術を開発している企業です。同社はこの技術を活用して、既存の太陽光発電設備の診断を行い、性能を向上させる再生事業にも取り組んでいます。

 

ヒラソル・エナジー代表取締役の李 旻(リ ミン)さん。「太陽光電源を効率的に維持・管理できる新技術で、社会に貢献したい」と語ってくれました

 

太陽光発電設備を使い続けられるものにしたい

 世界各地で毎年のように異常気象による災害が発生し、気候変動の影響がいよいよ明らかになってきています。温暖化防止のための温室効果ガス削減に向け、持続可能な電力供給の重要性が増しています。持続可能な電力供給を担うのは、太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーです。

 日本では、再生可能エネルギーの普及を促す目的で、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が定められた期間、一定価格で買い取る「固定価格買取制度」が2012年に導入されました。固定価格買取制度では、発電設備を設置した年度の買い取り価格が、10年間または20年間、固定されます。2012年7月の「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」により、太陽光で発電した電気は、電力会社が買い取ることが義務付けられました。

 固定価格買取制度は、使用した電気量に一定の金額をかけて計算される、利用者、つまり国民が負担する「再生可能エネルギー発電促進賦課金」によって支えられています。この制度が導入され、しばらく運用されると、「再エネ賦課金の負担が大きくなった」「導入が太陽光発電に偏った」「認定を受けているが稼働していない設備が増えた」などの問題が浮上しました。

 これらの問題を解消すべくFIT法は2017年4月に改正され、新しい固定価格買取制度が始まりました。改正FIT法では、第三者が発電所に立ち入ることを防ぐフェンスの設置、保守点検・維持管理、20キロワット以上の出力の設備を設置する際の標識表示、などが義務付けられました。

 ヒラソル・エナジーは、太陽光発電設備の保守点検・維持管理の人手や手間、コストを大幅に削減できる画期的な新技術を開発している企業です。

 代表取締役の李 旻(リ ミン)さんは、「例えば、水力発電は定期的にメンテナンスを行い、必要なタイミングで部品を交換し、100年使い続けるということが実現されています。太陽光発電の設備も、水力発電のように適切なメンテナンスを行うことで、ずっと使い続けられるものにしたい。固定価格買取制度の助成が終わったら、消滅してしまうようなことにならないようにしたいのです」と、会社を立ち上げた動機を語ってくれました。

 

パネル1枚ごとの状態を離れたところから把握できる

「太陽光発電の場合には、パネルとか、パワーコンディショナーとか、いろいろなところで故障が起きます。その故障をIoTとAIの技術を使っていかに発見するか、というのが私たちのミッションです。太陽光発電設備の劣化は毎年0.5%くらいと言われていますが、これはあくまで平均をとった数字で、ばらつきがあります。年間マイナス2%くらいの劣化になっている発電場は、私たちの感触では全体の10%〜20%はあると思います」と李さんは日本の太陽光発電設備劣化の現状を、こう分析しています。

 ヒラソル・エナジーが開発したのは、東京大学の落合秀也准教授が発明したパルス型電力線通信技術(PPLC™️)を応用した、太陽光発電所向けのIoTプラットフォーム「PPLC™️-PV」です。

 従来の太陽光発電の保守・点検の技術では、パネルを直列に接続した「ストリング」単位でしか異常を検知することができませんでした。そのため、どのパネルが故障して発電量が下がっているかを特定するためには、現地に人が赴いて当該パネルを特定する必要がありました。

 ヒラソル・エナジーが開発したPPLC™️-PVでは、パネル1枚1枚にセンサーを外付けし、パネルの発電時の電圧と電流を測り、そのデータを送電用の電線を使って送り出します。そして、電流を直流から交流に変換するパワーコンディショナーの手前に通信機を置いて、データをクラウドに送ります。こうすることで、パネル1枚ごとの状態を常に遠隔地からモニターすることができ、故障した場合には交換できるようになります。李さんによると、パネル1000枚分のデータを同時に受信でき、従来型の無線技術を使う場合や、追加で通信線を敷く場合と比べて構造がシンプルで、設置が容易だという利点があるそうです。

「特に野立ての場合には、従来型の無線技術では太陽光パネルを設置する斜面の向きがとても重要で、少しでも角が立つと中継がしづらくなるという欠点がありました。私たちの技術では、そもそも送電線上に信号を送り出しているので、そういう心配は一切必要ありません」

ヒラソル・エナジーが開発した、太陽光発電所向けのIoTプラットフォーム「PPLC™️-PV」。パネル1枚1枚にセンサーを設置し、クラウドに発電時の電圧と電流のデータを送ることで、遠隔地からパネルの状態を知ることができます

 

電源の再開発を行うことになる

 ヒラソル・エナジーは、通信技術を太陽光分野に活用していく中で、独自のデータを大量に集めることができる会社になりました。稼働中のパネルの様子を1枚ごとに把握できるようになり、そのデータを解析する知見を蓄積し、独自のAIエンジンも開発しています。

「太陽光発電においては、従来は設備の安全性や健全性が重視されてきました。一方で、今後の電源のニーズを考えると、性能の部分をどう見ていくかがとても重要です。私たちは、性能評価のところからスタートして、必要な発電場についてはわれわれのパネル監視技術を導入し、最適管理の提案をしていきたいと考えています」と李さんは語ります。

 既に、劣化している発電場の再生事業や、太陽光発電の性能診断も行っています。「太陽光電源の性能は、日射や環境といった要素のほか、そもそも作り方にも大きく作用されます」と、李さんは指摘します。そのため、同社の監視装置を導入する前に性能診断を行い、本来あるべき姿と現状とのギャップを可視化することにも力を入れています。

 昨年10月には、商業施設の「柏の葉ゲートスクエア」と「ららぽーと柏の葉」の太陽光発電設備の保守管理に、PPLC™️-PVを導入し、今年の1月から試験運用を開始することが発表されました。コロナウイルスの影響でセンサーの供給が滞り、スケジュールが遅れていますが、来年の1月をめどに再開する予定です。

 この目的の1つは屋上の発電設備の健全性を診断することだと、李さんは語ります。「柏の葉の太陽光発電設備がどこまで元気なのか、過去の発電データから分析する価値があるという証拠が見えてきています。PPLC™️-PVを導入することで、実際の発電能力の強化と、必要に応じた再生の提案を併せて行うことも考えています」

 李さんは、太陽光発電装置を再生することは、「FIT価格で導入されている電源の再開発を行うことになる」と言います。既存の太陽光発電設備の発電能力を同社のサービスを導入して強化できれば、新規に土地を手当てしたり、設備を導入することなく、新規電力を上乗せすることができるからです。

「弊社の機器を導入し、必要に応じてパネルを交換するだけで、新規の電源開発と同じような効果が得られます」

 地方自治体も含め、「事業運営を100%再生可能エネルギーで調達すること」を目標に掲げる「RE100」にコミットしている事業者や団体にとっては、今まで導入した太陽光発電設備の健全性を維持することは重要です。そういう意味でも、「地域ごとに拠点を設け、周辺の太陽光電源が元気かどうかを診断し、修理と維持をどうすればよいかのモデルケースを作って、徐々に広げて行きたい」と李さんは考えています。

※こちらのインタビューは柏の葉イノベーションフェス2020の記事を転載しているものになります。

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