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TOPICS【FS CREATION 佐藤 宗太特任教授インタビュー】「今まで誰も考えもしなかったところで、まったく新しいサイエンスを見つけていきたい。ここならそれが出来ると信じています。」

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  • FS CREATION

東京大学、千葉大学、国立がん研究センター東病院などと連携し、次世代医療技術・ヘルスケアサービス・分子構造解析の開発を進める拠点「三井リンクラボ柏の葉」。その中心的存在である「FS CREATION」は、東京大学藤田誠卓越教授・佐藤宗太特任教授を中心とするアカデミアグループと国内3大分析装置メーカーや製薬・食品会社など民間企業による、ライフサイエンス研究における世界唯一の、分子構造解析を探求するオープンイノベーション拠点です。その「場」のデザインは高く評価され、ラボラトリーデザインと実験台がそれぞれ2022年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

このプロジェクト成立の経緯や活動内容、目指すところについて、佐藤宗太特任教授にお話を伺いました。聞き手は「三井リンクラボ柏の葉」で入居者の活動をサポートするサイエンス・コンシェルジュ、野村俊之です。

ーまず最初に、FS CREATIONの成り立ちについて教えてください。

具体的なきっかけは、2018年にノーベル賞の前哨戦とも言われるウルフ賞の化学部門賞を受賞し東京大学では3人目の「卓越教授」となられた藤田誠先生が2022年度いっぱいで定年退官されるのに伴い、翌年度以降の研究場所を探していたところに、三井不動産から「リンクラボ柏の葉」を研究拠点とするご提案をいただいたことです。
私たちはこの5年ほど東大の「社会連携講座」のひとつとして産学連携の取り組みを進めています。「リンクラボ柏の葉」の“産学連携によるオープンイノベーション拠点”というコンセプトは私たちの目的と完全に合致するものでした。そこで「FS CREATION」を立ち上げたというわけです。

ー佐藤先生が産学連携に取り組むことになったきっかけ、経緯はどのようなものだったのでしょうか。

私が教員になったとき、年1~2社くらいは企業との共同研究はあったんですが、あまりうまくいかないな、というのが正直な思いでした。お互いに「ハッピー!」という感じではなかったんですね。
ただ、その後東北大学に移り、ある企業さんとガッツリと共同研究することになりまして。私はプロジェクト全体の統括補佐をしたんですが、これはすごく上手くいったという実感があったんです。そこでは人と人がしっかりと組んで、フリーにディスカッションできる関係性が生まれました。こうすればうまくいく、逆に言うとここまでやりこまないとお互いwin-winになるような成功はないんだな、ということをその時に知りました。
そうした経験がFS CREATIONに繋がっています。

共創パートナーがいつも同じ空間にいると良い。そしてその空間のデザインが、コミュニケーションの質に影響する。

ーFS CREATIONを訪れると、まずガラス張りの空間がとても印象的です。この空間デザインにも、そうした経験が活かされているのでしょうか。

はい、まさにそうなんです。今お話しした東北大学での産学連携の研究拠点になった研究室が、とても工夫を凝らした空間になっていました。
もともと合成の実験室はどうしても閉鎖的な空間になってしまいがちで、作る側も使う側も、そういうものだという先入観がありました。ところが東北大学の実験室はガラス張りになっていて見通しが良く、安全ですし、たとえばガラス越しに相手の様子を見て、今話しかけていいタイミングかな、というようなこともわかる。相談しやすいし、血の通った会話が出来る。共創パートナーがいつも同じ空間にいると良い、そしてその空間のデザインがコミュニケーションの質に影響する、ということを、その時に学びました。
そこで、今回「三井リンクラボ柏の葉」の6階にFS CREATIONをつくるにあたって、建築設計とコンセプト設計を、東北大学の実験室を作られた「建築築事務所」の望月公紀さんとの共同で行ったんです。

ーそうなんですね!では、東北大学の実験室から進化したポイントはありますか。

例えばFS CREATIONでは、ドラフトチャンバーもガラス張りになっています。通常ドラフトは柱が太く見通しが悪いというのが業界標準で、これも関係者みんなそういうものだと思っていたのですが、これだと安全性にもコミュニケーションにも課題があるよね、ということを望月さんと共有していたんです。
見通しが良く、出火、転倒、ケガなどにもすぐ気づけるような安全な実験室を作りたい。
望月さんの素晴らしいところはユーザー目線で理想を追求しているところだと思います。ガラス張りというだけではなく、たとえば機械の下に潜り込むのは危険なのでスイッチを上部に設けるとか、東日本大震災の経験を活かしてドラフトの転倒を避けるために天井と床の両方にしっかりと固定する、など、さまざまな工夫を凝らし、安全で使いやすいドラフトを実現してもらいました。

結晶スポンジ法を学んで自社に持ち帰る、というだけではなく
「参加各社で一緒に開発しましょう」というスタンスが強くなってきています。

ーここからは、結晶スポンジ法を中核技術としてワンストップで分子構造解析を行うことができる、世界で唯一の「統合分子構造解析拠点」としての研究内容について伺っていきたいと思います。
こうしたオープンイノベーションを志向する施設では各社の秘密保持が問題になることもあると思いますが、その点はどうされているのでしょうか。

秘密にしたい研究テーマを持ち込みたい場合は大学と守秘義務契約を締結することになると思いますが、今のところそういったケースはないですね。「みんなでオープンにやりましょう」というスタンスが前提となっていて、逆に言えば各社オープンにできる範囲で活動をしています。

ー各社共通の課題は何でしょうか。

分子構造解析において「使える解析法を見つける」ということです。
社会連携講座の最初の3年、1期目では、各社は、自社に結晶スポンジ法のノウハウを持ち帰りたいから学ぼうというスタンスが強かったんですが、今は、一緒に開発しましょう、というスタンスがより強くなったと感じています。そうした中で、より簡単にだれでも使えるように部分的に解析のプロセスを機械化する取り組みも始まっています。

化学100年の難問を解決する「結晶スポンジ法」。さらなる進化へ向けて研究課題も多いですが、夢もたくさんあります!

ーここでの研究には様々な可能性があるのですね。その中核となる「結晶スポンジ法」は、化学100年の難問を解決すると言われています。分子構造を容易に解明できるようになって、どのような未来がやってくるのでしょうか。また、どのような未来を目指されているのですか。

分子は直接見ることができないので、光や電場、磁場を使って得られるデータを見てその「姿」を間接的に割り出す必要があります。この方法として最も信頼できる手法の1つがX線結晶解析ですが、この方法では化合物を必ず結晶化させなければなりません。ですが、この結晶化が非常に難しいのです。これを解決したのが、「結晶スポンジ法」です。
構造を解析したい化合物の溶液に、スポンジのような多孔質の結晶=「結晶スポンジ」を浸すと、化合物が内部の空間に吸収され、一定の配置に並びます。これを単結晶X線構造解析すれば、目的化合物の構造がきれいに解明できるのです。言われてみれば当たり前のようですが、今まで誰も気づかなかった方法です。この、「結晶化」という工程を不要にしたということが、最大のブレイクスルーです。

また、試料がとても少なくて済むというメリットもあります。通常、試料を結晶化させると100~10,000粒の結晶が出来ます。1 mgの試料から1 mgの結晶が1つ出来るのではなく、1/1,000 mgの結晶が1,000個出来てしまう。しかし結晶構造解析は試料が1つあれば出来るので、これだけの数は不要なのです。結晶スポンジ法では1粒の結晶に吸わせるだけで試料調整が完了するので、試料量を1/1,000というスケールで減らすことが出来るのが画期的です。

今後は、試料量をさらに減らす方向にもって行きたいですね。いまは試料が数マイクログラム必要ですが、これが数ナノグラムの試料から構造解析可能となると、いま結晶構造解析自体を知らない人たちや企業にもこの方法が広がることになり、だれも想像しなかった世界が実現すると思います。

ーたとえばフルーツの抽出物をスポンジに吸わせると多種多様な物質がスポンジの中に入ってしまうと思いますが、これの解析はさすがに難しいのでしょうか。

そうですね、それは出来ないです。
ただ新しい流れとしては、すでに論文には出ているのですが、たとえばレモンの皮のような混合物から試料を持ってくるとき今までは微妙に酸性度を変えながら「水に溶けるか/有機溶媒に溶けるか」といった条件を変えて抽出という作業をしていたのですが、これが「結晶スポンジに入る/入らない」で抽出が出来るようになると、この方法で抽出した(結晶スポンジに入った)ものは必ず構造解析できるのではないか、という希望を持っています。

ー結晶スポンジに入る/入らないというクライテリア(基準)はどこに依存しているのでしょうか。

結晶スポンジと解析分子との相互作用が強いか強くないか、とか、スポンジの穴に対して分子が大きいか否かというような要素もあるんですが、予測が付かないので、そこに科学的な課題は残っています。

ー結晶スポンジの材料によっても入りやすいもの、入りにくいもの等あると思うのですが、そうした研究はされているのでしょうか。

はい。ただ、現象がとても複雑なので非常に難しいものがあります。
いま、結晶スポンジは数種類~10種類ほどありますが、一緒につかう溶媒によってまた違う性質の結晶スポンジができるため、溶媒が10種類あるとその10倍ということになります。このあたりがとても複雑で悩ましいですね。スポンジの中の溶媒より解析分子の方が「居心地」が良くないとスポンジに入ってくれないのですが、この「居心地」についてはかなり予測が難しいのです。ですので、今のところはスクリーニングで良い条件を見つけています。知らない方は「予測できるんじゃないの?」と言うんですけど、簡単じゃないんですよ(笑)

ー低分子だけではなくペプチド、たんぱく質などより大きい分子にも広がると応用が広がるのではないかと思うのですが、やはり難しいのでしょうか。

実は高分子の方は出来ちゃっているんです。「拡張結晶スポンジ法」と呼んでいるんですが、たんぱく質が中に入る錯体というのはあるんですね。ただ、たんぱく質くらい大きな分子になると並べるのが大変で、最先端の基礎研究として取り組んでいるという状況です。
また、低分子とたんぱく質との中間がまだ埋め切れていません。スポンジの穴のサイズとして1ナノメートルから5ナノメートルの間がなく、世界中でその中間の穴のサイズを作れないか試されており、私たちも研究を進めています。

ーまだまだ研究課題はたくさんあるのですね。

はい、そうですね。課題もあるし・・・夢もいっぱいあります!

分子構造解析をこれだけの規模で進めているところは世界にも他にありません。大学が新しいサイエンスを切り拓く「縦方向」に引っ張り、企業が応用例を増やして「横」に広げることで、新しいサイエンスを見つけていきたいと思っています。

ー企業がFS CREATIONに参画するにあたって、基準のようなものはあるのでしょうか。

いえ、特にありません。長らく一緒に研究を進めてきた、今参加されている企業が承認し、大学から見ても目的がしっかりしている企業であればご参加いただけます。
隣の会社が何をしているのかあまり知らない、ということは多いと思います。しかし、最先端の技術研究にあたっては、お互い何をしているのかを知ることはとても重要です。

ここでは株式会社島津製作所、日本電子株式会社、株式会社リガクという日本を代表する3⼤分析装置メーカー3つが大学を媒介として繋がることで、核磁気共鳴装置(NMR)・X線回折装置(XRD)・質量分析計(MS)が1か所に集まることを実現しました。これにより、企業側が試行錯誤しながら別々にそれぞれの分析をするのではなく、分析装置メーカーの側で統合的に構造解析における解決策を提案し、さらに困難な課題にはアカデミアも加わってワンストップで立ち向かうということが可能になったのです。

また、今までの共創を通じて、参加企業の人たちは何かあるとすぐにすっと来てくれるという文化が育まれています。社内で部署を超えてより適任の人を紹介したり、社内で次世代の研究者にも加わってもらったり、共同で勉強会をしたりすることも。かなりフレキシブルに動いています。こうしたオープンな共創文化も、大きな魅力だと思っています。

結晶スポンジ法は難しく、分子構造解析は複雑なため、これだけの規模で進めているところは世界でも他にありません。東京大学と共に研究するからには「誰もやらないような新しいところを見つける」ことが参加企業の皆さんの原動力です。大学が縦方向に引っ張り、企業が横に広げる。そうすることで、今まで誰も考えもしなかった全く新しいサイエンスを見つけていきたい、ここならそれが出来ると信じています。

[FSクリエイション ウェブサイト]
https://fs-creation.jp/

 

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