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TOPICS【植物工場研究会 林絵理副理事長インタビュー】「食料や環境、エネルギーなどに関する課題が深刻化している現在、植物工場の技術へのニーズはより高まっています。」

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  • 千葉大学環境健康 フィールド科学センター

柏の葉キャンパス駅から見て「ららぽーと柏の葉」の1つ先の区画に広がる、「千葉大学 柏の葉キャンパス」。この広大な敷地には、日本を代表する「植物工場」の研究・開発拠点があります。その活動の目的や内容について、特定非営利活動法人 植物工場研究会の林絵理副理事長にお話をうかがいました。

 ーまず最初に、「植物工場」とはどういうものか、教えていただけますでしょうか。

植物工場とは、光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分等を人の手でコントロールした閉鎖的な環境で作物を育てる施設です。気候などに左右されずに安定的に生産できる、農薬が不要で安全な作物がつくれる、重労働が必要ないので高齢者や障がい者も含む多様な方の就労が可能になる、環境負荷を減らせる、など多くのメリットがあり、世界中で研究や事業化の取り組みが進められています。

植物生産システムの研究・普及を通して、食料、環境、エネルギーなどの世界的課題から一人ひとりの健康や生活の質の向上までを同時並行的に解決したい。2010年以来、SDGsの概念を先取りして活動してきました。

―この千葉大学柏の葉キャンパスでの取り組みはどのように、何を目的として始まったのでしょうか。

 2008年くらいから、農林水産省と経済産業省によって、植物工場の研究拠点を日本全国に作る動きが活発化していきました。予算が組まれ、農地法も改正されるなど、環境も整ってきたんです。そうした状況で千葉大学でも、環境・健康・農業をテーマにしたこの柏の葉キャンパスにおいて植物工場の取り組みを始めようということになり、そのためには運営の組織が必要ということで、2010年にNPO法人としてこの「植物工場研究会」が立ち上げられました。現在の会員数は団体が約130、個人が約100になります。

「植物工場研究会」は千葉大学のキャンパス内にあり、会長を千葉大学元学長の古在豊樹先生が務められ、ほかにも多くの先生にご参画いただくなど、千葉大学と連携して活動をしていますが、組織としては財政的にも千葉大学とは完全に独立した組織です。

私たちは「実学」=学術と産業の融合、サイエンスに根差した知識を世の中に普及させていくことを重視しています。数多くの実証施設で実際に集めたデータを皆さんの研究や事業に活かしていただくことを目的にしてきました。

活動を続ける中で、今では私たちのビジョン・ミッションは大きく広がっており、持続可能な植物生産システムの研究・普及を通して、食料、環境、エネルギーなどの世界的課題から一人ひとりの健康や生活の質の向上までを同時並行的に解決する、ということを理念として、幅広く活動をしています。
SDGsが国連総会で採択されたのは2015年ですが、わたしたちはほぼ同じような理念での活動を先取りして行ってきた、ということになると思います。

研究、教育、標準化、事業サポート、広報の5つの軸で活動。世界中の多くの方にご参加いただいています。

ー活動内容や参加者について、詳しく教えてください。

はい。大きく分けて5つの活動をしています。

まず、研究です。私たち自身は研究機関ではないですが、国内外の産学さまざまな組織と一緒に共同研究や委託研究を行っています。これは年間で約20件くらいです。

2つめに、教育、研修やワークショップを積極的に行っています。
これまでに施設見学の参加者が累計で 48,000人、年度によっては約40% は海外からのご参加です。
また、2009年以来152回の勉強会を行ってきていまして、通常100~200人、多い時で国内外から500人規模の方に参加いただいています。これまでの累計では約 14,000 名になりました。テーマによって参加者は違うんですが、植物工場事業者、業界関連企業、これから事業化を検討している方など、皆さん熱意のある研究者、事業者さんなので、実務的でエキサイティングなディスカッションが行われます。
さらに日本のみならず世界各国からの研修の受け入れも行っており、これまでの卒業生は約3,900名になりました。

3つめに標準化です。植物工場は新しい産業なので、各者が協同して、植物用のLED照明の仕様・特性や生産性向上のための指標などの標準化に取り組んでいます。

4つめが、事業のサポートです。各種技術・分析サービスの提供、新規工場立ち上げ支援、国内外における市場ニーズの把握・分析をもとにした事業化企画及び経営支援、国際化支援、それに伴う技術サポート、研究および事業の国際プロジェクトマネジメントなどをプロジェクトベースで行っています。

そして最後に、広報活動。植物工場の活動や価値を世界中に広めるべく、海外でのカンファレンスやシンポジウム、展示会への参加も含め、幅広く広報活動をしています。
Netflixの「ビル・ナイが世界を救う」という番組で取り上げていただいたこともあるんですよ。YouTubeで一部ご覧いただけますので、ぜひ見てみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=M52DYzWrNZI

 会員企業が入居・常駐して数年のあいだ実践的な研究をすすめ、「卒業」した企業が自社工場を持ち事業化する。そして成功企業がその知見を「後輩」に共有するため講師として活動する。そういう嬉しいサイクルが生まれています。

ー企業との共創事例としては、どのようなものがありますでしょうか。

これはもう、ほんとにたくさんあるんですよ!(笑)

元々多くの企業と協同することを目的としていますので、そのためにキャンパス内に住宅展示場のように多くの温室や植物工場を並べました。そして設立当初はテーマをトマトに絞って温室ごとに競うことで、当時の収量日本一を達成するなどの実績を上げたんです。

先ほど申し上げた通り、私たちは「実学」をテーマに、勉強会や研修を提供しています。企業さんはまずここで学び、シミュレーションし、リスクをリストアップして解決策まで想定した上で、自社工場の設計や運営に進みます。ですので、稼働後も大きなトラブルがなく安定的に売上を上げることが出来る。そういう事例が数多く生まれています。
そして、すでに事業化に成功した「卒業生」の企業さんが、より一層の普及に貢献したいという想いで今度は教える側になって、講師として活動してくださっている、という嬉しいサイクルも生まれているんです。

―それは素晴らしいですね!

そうなんです。そういう意味では、ここはいわばコワーキングスペースやスタートアップのインキュベーション施設に近い性格を持っています。会員企業が入居・常駐して数年のあいだ実践的な研究をすすめ、「卒業」した企業が自社工場を持ち事業化する。皆さんが良くご存じの有名な飲食店チェーンの企業さんも、植物工場の事業化に向けていま研修・研究をされているんですよ。

設立以来、わたしたちは市民との取り組みを大切に考えてきました。今後は教育の新しい仕組みづくりなど、市民の皆さんとの共創機会をもっと増やしていきたいと思います。

―なるほど。私たちの街から世界の農業が進化して様々な課題を解決していくと思うと、とてもワクワクします!
では最後に、今後の目標や夢などについてお聞かせください。

食料や環境、エネルギーなどに関する課題が深刻化し、SDGsへの取り組みの必要性が大きく言われるようになった現在、昆虫工場や陸上養殖など、植物工場が先駆けて進めてきた「閉鎖系の施設で生物を生産する技術」の需要は、より高まっています。今までは知識の普及や産業の立ち上げにフォーカスしてきましたが、今後はこの技術の社会における応用を増やすこと、多様な使いみちの検討やシステム開発などをしていきたいと思っています。

また、公民学が連携して共創環境を形成している柏の葉で活動を続ける組織として、今後様々なジャンルの研究者さんと連携し、お互いの知見を共有できれば、と思います。多くの場合、新しい技術が農学に落ちてくるのは一番最後なんですよ(笑)。でも現在では、たとえば医学や薬学の研究成果の使い方も変わってきており、より多様になっています。他のジャンルの研究成果を活かせば農学での課題が簡単に解決出来たりすることもあると思いますし、植物工場は研究ツールとしてみんなが使いやすく、データをシェアしやすい分野なので、お互いに成果をより広げていくために多方面の研究者さんと連携していけたらいいですね。

そしてもうひとつ、設立以来わたしたちは市民との取り組みを大切に考えてきました。週末に講師を招いて市民講座を開いたり、家庭向けの植物工場家電の開発などをしたり。コロナ禍もあり最近はなかなかそういう活動が出来ていなかったのですが、今はスマホも普及していて、たとえばデータ共有なども10年前に比べはるかにしやすくなっています。今後はそういったものを活用した教育の新しい仕組みづくりなど、市民の皆さんとの共創機会をもっと増やしていきたいと思っています。

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