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TOPICS【都市環境デザインスタジオ:東京大学清家剛教授/千葉大学鈴木弘樹准教授インタビュー】「柏の葉には未来志向の前向きな雰囲気があるので、それが学生にいい影響を与えてくれるんです。」

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  • UDCK

都市環境デザインスタジオは、東京大学・千葉大学・東京理科大学・筑波大学の4大学共同で実施されている大学院のアーバンデザイン演習プログラムです。現在進行形で街づくりが進みつつある柏の葉キャンパス駅・柏たなか駅周辺を対象エリアとして、研究者や実務家を講師に迎え、行政や企業・市民とのオープンな議論を通じて、空間デザインや制度設計、未来構想力を実践的に磨くことを目指しています。
毎年、成果は「アーバンデザイン・アイデアブック」として冊子にとりまとめ、演習だけの成果物としてだけでなく、これからの柏の葉のまちづくりに対する学生たちの思いのこもったアイデア集として、UDCKで一般公開しています。

このプログラムについて、東京大学の清家剛教授と千葉大学 鈴木弘樹准教授にお話をうかがいました。聞き手はUDCKの担当ディレクター、三牧浩也副センター長です。

―このプログラムはUDCKが設立されたのと同じ2006年度に始まりました。あらためて、どういう経緯で始まったか教えていただけますでしょうか。

清家様:もともと東京大学大学院新領域創成科学研究科の演習プログラムとして、大野秀敏先生の建築設計のデザインスタジオがあったのですが、UDCKの創設者で初代センター長の北沢猛先生が柏の葉にいらっしゃるタイミングで、都市環境デザインのスタジオも要るだろうということで立ち上がったものです。これから街づくりを進めていく柏の葉をフィールドに、建築デザインと都市デザインという少し違う視点からそれぞれ研究すると良いのではないか、ということをお二人が考えていたのだと思います。

そして、ちょうどUDCKの設立時期とも重なっていたので、積極的に外に開いていこうということで、東京大学だけではなく4大学共同というたてつけにして始めることになりました。

―大野先生と北澤先生が柏の葉に集まったことをきっかけに始まったのですね。

清家様:そうです。そして、せっかく色々な人が柏の葉に集まってくるのだから、建築と都市だけではなく、農業とか機械工学とか社会とか、色々な領域に広げていこう、ということで、東京大学としては、IEDP(環境デザイン統合教育プログラム) という、専攻横断型のデザイン教育プログラムになり、現在では緑地活動、地域活動や情報環境など、色々な領域にも広がっています。

 柏の葉では思いっきり実践に近いようなことをやれる。とても大学院生向きのスタジオになっていると思います。

―柏の葉という実際の街をフィールドに、4大学が共同で実施しているのが、このスタジオのユニークな点というわけですね。

清家様:そうですね。この街のフィールドをサーベイして、この地域のことをしっかりと知って、提案する、というのは大学院新領域創成科学研究科として柏の葉に来た私たちの「覚悟」でもあります。これからもずっと続けるべきだと思っています。

また、4大学共同ということで、東京大学の学生は自分のキャンパスの地元を知ることになり、一方で他の大学の学生は外から柏の葉を見てサーベイしながら少しずつ街になじんでいきます。色々な学生に柏の葉のことを知っていただけるというのが、このスタジオのもう1つの側面です。

―いまお話を伺いながら思い出していたんですが、そういえば第1期では柏の葉で開発を進めている三井不動産の当時の担当者さんも受講生として参加されていたり、柏市の職員さんも参加されたりしましたね。

清家様:鈴木先生もそうだと思うんですが、「学部の課題ではないんだ」というところは明確に意識しています。学部ではなく大学院の修士課程の課題であると。ただ、それでも建築にいると多くの場合、「建築デザインのちょっと大人バージョン」にしかならないんですよ。ところが柏の葉では思いっきり実践に近いようなことをやれる。あるいはフィールドにしっかりと「くっついて」研究できるんです。さらに最終講評会も2回あって、1回目は先生と学生のみですが、2回目は住民の方々や柏市、三井不動産の方も交えた一般向けの公開講評会で、そこでいろんな方からコメントをいただいて、学生を鍛えていただいています。そのことにより、とても大学院生向きのスタジオになっていると思います。

 カラーや専門領域の違う多様な人が関わってプロジェクトが出来上がる。社会や会社の縮図のようになっているのも、とても良い点です。

―鈴木先生、千葉大学では建築系の学生さんはほぼ柏の葉に縁のない方々だと思います。4大学連携であるということや柏の葉がフィールドであるという点について、また、テーマが建築ではなく都市デザインであるという点について、どのようにお考えですか。

鈴木様:私自身は当初からUDCKのディレクターとして関わってきたのですが、柏の葉に千葉大の大学生はいないので、千葉大生がこのスタジオに参加するのはなかなか大変だったんです。ですが、柏の葉は都市開発が進められ、実際にものが建っていく、すごく「熱量」がある場です。大学で建築なり都市なりをある程度学んだ経験のある大学院生が柏の葉を見ると、色々な新しいことをガンガンやっている。それがすごく良いんですよね。いま建築の世界はシュリンクしていて、「新しいものを創るのはだめだ」という空気の中で改築だとか保存だとかの領域でデザインを考えていかなければならないような時代です。そうした中で、柏の葉では新しいものに取り組んでいこうという機運がある。こういう場でスタジオが出来るというのはとても素晴らしいことだと思っています。

また、4大学共同という点では、大学ごとにカラーがまったく違うんですね。専門も建築以外の、都市、園芸、経済など違う領域の人が集まってきています。それがある意味社会や会社の縮図のようになっていて、多様な人が関わってプロジェクトが出来上がるという、その点もとても良い点だと思います。参加していて楽しいスタジオです。

―多様性で言うと、講師陣の数がすごく多い、しかも全員が違うことを言ってくるっていうのもありますよね(笑)。長期にわたって色々な意見に揉まれるという。

鈴木様:そうなんですよね(笑)。そしてプロジェクトってそういうものですよね。そういう中で、もう1ランク上にいける。クオリティも高くなるし、面白いものが出てきます。柏の葉は「スマートシティ」という冠があり、未来志向なので、5年後、10年後、その先のことを真剣になって考えないと答えが出ない。自由だけど、束縛もある。色々な知識を積み重ねて、イマジネーションをもって取り組まないといけない。そこもとても面白いです。

このスタジオで学んだことや人の繋がりから新しいものが生まれてくるのであれば、私たち教育者としてはとても嬉しいです。

―今までの学生の提案の中で記憶に残っているもの、あれは良かったというものはありますか?

鈴木様:最近、生態系の話が良く出てきますね。建築の世界で生態系の話を考えるということは今まではあまり無かったんですが、これからはトレンドになってくるのかなと。少し不思議な気分でもありますが、これからは考えなければいけないキーワードになるのではないかと思って、印象深いです。

清家様:柏の葉で開発が進んできているのを学生が敏感に感じ取っているというのもあるかもしれないですね。

私は、初期の「PLS(Public Life Space:ユニットハウスを使った小さな公共空間)」のような、手に届きそうなものを提案して実際に柏の葉でやってしまおう、というものが今でも印象に残っています。2008年の「タナカ―」もそうですね。これは柏ビレジの住民が買い物難民になっているという課題を解決するための、クルマで地域にモノを運ぶことでテンポラリーな店舗や図書館などになる、という提案だったんですが、これを考えた学生がその後これをそのままほかの地域でも展開して、しかもこの名前は「柏たなか」という地名にちなんだものだったのに、ほかの地域でも名前は「タナカ―」のままっていう(笑)。

これから先もこのスタジオを続けていくことで参加者に影響を与えて、「PLS」や「タナカ―」のような具体的なプロダクト・事業ではなくても、このスタジオで学んだことや人の繋がりなどから、なにかしら新しいものが生まれてくるのであれば、私たち教育者としてはとても嬉しいです。

 

 ー最後に、今後の構想や目標などについてお聞かせください。

清家様:だいぶ開発が進んできましたが、それでもまだ対象にできる空き地はあります。また、最初の開発からもう10年以上経つので、ここに修正をかける提案も出来ますね。未知の部分と完成して成熟に向かっている部分の両方があるという点を活かして、まだまだ面白い課題をつくれると思っています。先ほども鈴木先生がおっしゃっていましたが、この街は未来志向の前向きな雰囲気があるので、それが学生にいい影響を与えて、積極的な良い提案をしてくれるんです。そういう意味では仮にすべての街区の開発が完了しても、それはそれで次のステップがあると思っています。

鈴木様:柏の葉ではゼロベースから街づくりを進めているので、スマートシティとしてリアルな空間とバーチャルが一体となったものが作れる、そしてそれを発信できると思っています。もちろん現在ではまだ出来ているわけではありませんが、それが出来る可能性があると思っています。「生活と直結した、リアルとバーチャルが結合したスマートシティ」をテーマとして取り組んでいきたいです。そういうことができる良い場があることが、本当に嬉しいことですね。

―それはスタジオだけではなく、UDCKに課せられた使命ですね。学生と一緒に考えていきたいと思います。

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