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TOPICS【産業技術総合研究所による配送モビリティ走行実験】「自律モビリティのプラットフォームとユースケースの両方をつくって、街中を色々なロボットが走り回っている未来を実現したい。」

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  • 国立研究開発法人産業技術総合研究所柏センター
今年の春の初め、柏の葉キャンパスの駅前を可愛らしいロボットが走り、多くの子供たちに囲まれて住民の皆さんの話題になりました。これは、何を目的としたどのような実験だったのでしょうか。
この走行実験を行った国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下産総研)に、その内容や目的をうかがいました。お話を聞かせてくれたのは、デジタルアーキテクチャ研究センターの小澤順さんと、人間拡張研究センターの赤坂文弥さん。聞き手は、UDCKタウンマネジメントの金田昂です。

柏の葉は「ウォーカブルタウン」を街づくりの指針の一つとしていますが、歩きやすい街はロボットも走りやすいんですね。

―今回の実験の内容を教えてください。

小澤様:2023年の2月24日から3月31日の間、柏の葉キャンパス駅前とアクアテラスの周辺において、産総研が開発した配送ロボット「hacobie」とZMP社製「DeliRo」の走行実験を行いました。これは、将来の物品配送サービス実現を目的としたものです。単にお店で買ったものを運んでもらうだけではなく、親が子どもにお願いするようなちょっとした様々なおつかいができるロボットをイメージしています。たとえば、友達の家から忘れ物を取ってきて、とか、家からクリーニング屋さんまで洗濯物を持って行って、とか。そんな自動配送を柏の葉スマートシティで実現したいと思っています。

―こうした実験を行う場所として、柏の葉はいかがでしょうか

小澤様:とても適していると思います。まず歩道が広く、ロボットが走りやすい。柏の葉は「ウォーカブルタウン」を街づくりの指針の一つとしていますが、歩きやすい街はロボットも走りやすいんですね。それは今回強く実感しました。

さらに、コンパクトなエリアに多くの住民がいらっしゃって、商業施設などの生活施設もある。住民の皆さんはこうした実験に理解があって、受け入れてくれる、期待してくださっている。ですので、ロボットを走らせるという技術的な面だけではなく、住民さんのご意見やご感想を訊くといった意味でも、こうした実験がやりやすい街だと思っています。

柏の葉はスマートシティとして様々な先進的なことが行われていますが、分かりやすく目に見えるものはそんなに多くはないんですよね。ですので、たとえば初めて駅前を降りたときには、どこが「スマート」かって分かりにくい面もあるかな、と。こういう自律ロボットが駅前を走ることで「スマートシティ感」が出るといいなとも思っています(笑)。

―たしかにそうですね(笑)。ではあらためて、産総研さんがこうした実験を行う目的を教えてください。

小澤様:2年ほど前、UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)と産総研で、モビリティサービスに関するアンケートを実施しました。たとえば電動キックボードは若い方のニーズが高く、循環バスは高齢者の方に望まれているといったことが分かったんですが、その中で、モノ配送のニーズはすべての世代でとても高いニーズがあったんです。そこで、この領域に取り組んでいこうということになりました。

赤坂様:コロナ禍を経て私たちの暮らしは色々変わってきていますが、その一つとして、今まで以上にネットで買い物をすることが一般化しました。柏の葉では、自動運転バスの開発が進んでいます。また、我々も電動のパーソナルモビリティ(個人用の乗り物)など「人が動く」モビリティのサービス開発も行っていますが、「モノが動く」技術・サービスもセットでサービス化できるといいなと思っています。たとえば、人が公園から自宅へ移動しているのと同時に、お店からモノが移動している。その両者がマンションのエントランスでドッキングしたらとても便利で、生活の向上に繋がりますよね。そんなサービスを実現したいです。

社会実装するためには「ルール」を守るだけではダメで、「マナー」も守る必要がある。そうでないと嫌われてしまいます。

―子どもたちに大人気だった、この可愛らしいロボットについて教えてください。

小澤様:はい。「hacobie(ハコビ―)」は産総研が初めてつくる「柏の葉モデル」のロボットです。ですので、デザインにおいても柏の葉らしさを出したいと思いました。柏の葉の特徴って何かなと考えたときに、まずはキャンパスシティ、学術研究都市という点かなと。そこで、LiDAR(障害物を検知するセンサー)を搭載する部分を、大学生の角帽のカタチにしました。これがあまり気付いていただけないのは誤算ですが(笑)。そして、UDCKの許可をいただいて、側面には柏の葉スマートシティのロゴを大きくあしらっています。

「hacobie」はすでに技術的には自走できるのですが、実証実験としての安全確保のため、うしろを歩く保安員とリードで繋がれています。ロボットが暴走するとリード先端のピンが抜け、自動的に停止するという仕組みです。

赤坂様:期間中、ロボットが暴走したことはなかったのですが、ただ、お子さんに囲まれてしまって止まってしまうことが良く起こりました(笑)。

小澤様:午前中は保育園などの小さなお子さん、午後は学校帰りの小学生ですね。「何のロボットなの?」と訊かれるので、「うしろのロッカーを開けてごらん、モノが運べるんだよ」と教えてあげます。すると、「人は乗れるの?」「表情は変わらないの?」など、次々と質問が飛んできます(笑)。とにかくお子さんに大人気でした。

―今回の実証実験ではどのようなことが分かりましたか。

小澤様:やはり実際に動かしてみると、細かなことに気付きます。たとえば、ロボットが避けるべき「障害」とは何か。技術的には、もちろん走行に支障がある障害物は避けることが出来ます。しかし、避けなければいけないものはその他にもあるんです。たとえば水たまりや泥の上を走った後にマンションに行くと、マンションの床にタイヤの跡が付いてしまう。マンションを汚してしまったらサービスとしては失格です。道端に咲いている小さな花だとか、土の中の植物の種も避けた方がいいですよね。つまり、社会実装するためには「ルール」を守るだけではダメで、「マナー」も守る必要がある。そうでないと嫌われてしまいます。

赤坂様:そのあたりは今後、AIカメラと連携して学習させるとか、センシングしながら走行したデータを他のロボットに伝える、など進化させていきたいと思っています。

自律モビリティの技術を使ったサービスに様々な事業者さんが参入できるよう、産総研がプラットフォームとユースケースの両方をリードしていきたいと思っています。

―今後の展開や目標について聞かせてください。

小澤様:最近、関連の法律が変わりましたが、外部環境もどんどん変わっていきます。そうしたものに対応しながら、最終的にはお客さんの指示で動く配送ロボットの実現を目指していきます。

自律配送ロボットを使ったサービスを想像すると、運ぶものは色々あります。冷蔵や冷凍に対応してクーラーBOXを付けるなど、ロボットにも多くのバリエーションが必要になってくるでしょう。
また、自律モビリティで出来ることはモノを運ぶだけではありません。広告・宣伝に使うとか、ゴミの回収に活用するとか、色々なユースケースが考えられます。AIカメラと連動した警備員ロボット、なんていうアイデアもあり得ますね。そうなるともちろん食品を運ぶのとは別のロボットが必要になります。

ですので、自律モビリティには様々な事業者が参入できるようにする仕組みが必要です。産総研では、そのプラットフォームになるシステムも開発しています。こうしたシステムは複数の大手企業も開発していますが、私たち産総研は民間企業ではないので、様々な事業者に相乗りしていただくことを前提にしたプラットフォーム開発を行っています。これは産総研だから出来ることだと思っています。

赤坂様:最初から複数の事業者さんとの共創を視野に入れているので、今回の実験でも、自前のロボットだけではなくZMP社製の「DeliRo」というロボットを同時にテストしました。産総研がつくるシステムをプラットフォームに、多くの事業者さんと一緒に自律モビリティが活躍する社会を創っていきたいですね。

小澤様:そのためにはシステムだけを創ってもしょうがない。こうした事業では、「システムをつくりました。使いみちはまだ考えていませんが、アイデアのある方は使ってください」みたいなアプローチになりがちで、せっかく作ったシステムが活用されないことも少なくありません。
今回、私たち自身が実際に街でロボットを動かしているのは、ユースケースにおいても産総研がリードしていく必要があると考えているからなんです。

赤坂様:色々な事業者さんに参入していただくために、私たちがあらかじめ課題を洗い出しておければと思っています。
そして、実際に自動配送をサービス化することを考えると、当然、自律走行ロボットだけでは完結しません。自動車や人とロボットを繋いで配送のラインを創る必要がある。人が得意なところ、自動車が得意なところ、ロボットが得意なところを繋いで、ハイブリッドに最適化する必要があります。ですので、これは個人的な想いですが、ここ柏の葉で、自動運転という技術ではなく配送というサービスに関わる様々な事業者さんと情報や課題を共有しながら共創していける環境や組織が出来たらいいなと思っています。街の皆さんと一緒に、「自律配送ロボットが走り回る柏の葉スマートシティ」という未来を創っていきたいですね。

[産総研スマートモビリティプラットフォームプロジェクトのTwitterはこちらです]
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