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TOPICS【株式会社トライアングルプロダクツ インタビュー】「当社の製品で品質管理をすることで、病院は安全な医療を提供でき、患者さんは安心して医療を受けられる。当社はその収益を得る。この循環で社会に貢献したい」

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  • 東葛テクノプラザ
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柏の葉スマートシティにある県立のインキュベーション施設「東葛テクノプラザ」。ここに、がんの放射線治療におけるゲル線量計の開発製造でいま注目を集めている企業があります。株式会社トライアングルプロダクツ。橘理絵 代表取締役と、夫であり共同研究者の国立がん研究センター東病院放射線品質管理室 橘英伸先生にお話を伺いました。
聞き手は三井不動産柏の葉街づくり推進部の野村俊之です。

―まず、御社の事業内容と強みについて教えてください。

橘 理絵様:当社は、放射線治療分野に特化した医療用機器の製造販売をおこなっています。私はもともと診療放射線技師として現場で働いていましたし、他の従業員も放射線治療に関する有資格者で、豊富な臨床経験を持っています。そのため、現場の声をよく知っていて、現場の皆さんが本当に使いやすい製品を開発できるのが最大の強みだと思っています。

―起業してご自分の事業を立ち上げることになったきっかけは何だったのでしょうか。

橘 英伸様:元々は私が12~3前に立ち上げた会社なんです。
日本では昔から、外科の先生が活躍するドラマの人気が高いですよね。実際、日本の外科医師は世界的にも優れているんです。ドラマを見て外科医になりたいと思う人も多いそうです。それに比べると放射線は目に見えないし地味なんですが、実は放射線治療には大きな価値があります。

欧米では、がんサバイバーにとって重要なのは、治ったあとに極力ふつうの生活に戻ることです。たとえば顔にがんができた場合、外科手術をすると顔が半分損傷してしまいます。一方、放射線治療であれば、がん細胞の方が正常細胞よりも早く消えるので、顔が温存されるんです。
また、おいしく食事するためには唾液がきちんと出ることが重要です。唾液が出ないと味が分からないし、口腔内も不衛生になってしまいます。現在では放射線技術の進歩により、美味しいと感じる機能を残すことが出来るようになった。放射線治療により、がんサバイバーのQOLを上げることができるのです。

昔は放射線を頭全体に照射していたので、海馬系にダメージが出てしまうことがありましたが、今ではピンポイントで必要な個所だけに照射することが可能になりました。そういうわけで放射線治療はかなりメジャーになってきましたが、放射線は目に見えないので、どんなふうにどの程度当たっているのかを判断するのが難しいという問題があります。当たりすぎているかもしれないし、当たっていないかもしれない。放射線が意図通りにきちんと当たっているのか、品質管理する方法がとても大事なのです。

品質管理の方法としてはソフトウェアで確認する方法がありますが、私が起業した当時はあまり良いソフトウェアがありませんでした。そこで、私はもともと大学院でコンピューターが専門だったので、つくってみたんです。しかし、最初の5~6年くらいはなかなか売れなかったです。その後アメリカで働く機会があって渡米。3年くらいで帰国して開発したソフトが、やっと国内である程度普及してきました。ただ、その時期からわたしは国立がん研究センターの職員となったため、代表を退任し、妻にその任務をお願いすることにしたんです。

妻自身は自分が起業家になるような人生は想定していなかったと思うんですが、ある程度収益が出てきたので、家庭としては収入は重要なので同意せざるを得ないかなと(笑)。断れないような状況から、だんだん本気になってもらえるようにしていきました(笑)。

―そして近年はソフトからハードへと事業を拡張され、ゲル線量計の開発販売に注力されています。これはどのような思いから開発することになったのでしょうか。確たる自信があったのでしょうか。

橘 英伸様:まず作ってくれる人、妻がいたというのが大きいですね。
ソフトは優秀な人ならだれでもつくれるし、やはり欧米が強い。ですので、放射線治療の領域で国産のハードウェアを出してみたいというアイデアがあったんです。
放射線に関して、「診断」なら複数の日本の大手メーカーも製品を出しています。しかし「治療」のメーカーは国内にない。日本は放射線治療の大きな市場ですが、買わされる立場でしかないのが現状です。そこでこの領域でなにか国産のハードを創りたいと思っていたのですが、とは言えそんなに大きなことが出来るわけではない…そんなときにある先生からゲル線量計の話を聞き、これなら日本で土台をつくって、世界的に出していけると思ったのです。

橘 理絵様:当初、ソフト開発だけをしている期間はKOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)をオフィスにしていたのですが、ハードの開発をするにあたり、貸し研究室や各種機器の揃ったこの東葛テクノプラザに移転してきました。

―御社が開発販売するゲル線量計について、概要や特長を教えてください。

橘 英伸様:例えば、国立がん研究センター東病院だけでも年間1500人くらい、毎月100人以上の方が放射線治療を受けています。ただ、放射線医療全体の課題として、実際にどこにどのくらい放射線が当たっているかは目に見えないため、「たぶん当たっているだろう」で治療しているのが現状です。そのため、日本でもいままで何度か、大学病院などで照射場所が違っていたという大きな事案がありました。    
そこで、放射線の当たる場所と量を事前にシミュレーションできるこのゲル線量計に注目しました。

橘 理絵様:これは水・ゼラチンをベースとし、放射線に反応する試薬を何種類か入れています。作ったときは透明ですが、放射線が当たるとその部分が白濁します。放射線線量によって白くなる度合も違いますので、量も可視化できます。これによって、放射線の位置と量を3次元的に見ることが出来るというわけです。
この容器を患者さんの身体に見立てて、これに医師がコンピューターで計画した通りに放射線を当てることで、事前のシミュレーションと実際の照射結果を比較することができます。
また、小線源療法という、体内に機器を挿入して放射線を照射する治療法もあり、細いカテーテルを体内に入れるのですが、それも新しく開発した内照射用のゲル線量計で検証できます。

先日、日刊工業新聞の1面でも紹介していただいたのですが、こちらの写真が分かりやすいと思います。写真左がコンピューターによるシミュレーション画像で、右が実際に照射したもの。複数方向から照射することで、重なった中央のところが1番強く当たる。まわりの正常組織には、あまり放射線が当たらないで済むようにするわけです。この画像の場合、シミュレーション通りの結果が得られています。

外照射用は、CTを使って画像を詳細に解析します。一方、内照射用はMRIで解析します。目的に応じて使い分けることになります。
    
―白濁の度合いで放射線量を見ているわけですよね。どれくらいの白さがどの線量かという基準、スタンダードカーブはどうやって把握しているのでしょうか。

橘 英伸様:おお。さすが、鋭いご質問ですね(笑)

橘 理絵様:別容器に、基準の線量をあてた複数のゲルをあらかじめ作っておきます。放射線量と白濁の関係は比較的安定していますが、まったく同じようにつくっても、湿度などによって多少変わるんですね。ゲルのロットによって濁り方が変わる。ですので、ロットごとにこの作業をしています。

―現場での評価はいかがですか。

橘 英伸様:この技術自体は10年以上前からあったのですが、当時は精度の問題もあって、評判はあまり良くなかったんです。実際、かつては他社も手掛けていたんですが、いま国内ではトライアングルプロダクツのみという状況です。事業としてはなかなか難しい領域ではあるんです。

橘 理絵様:当社では、販売方法を工夫するなどして、シンプルで使いやすいものにすることで成功していければと思います。    
その一環として、郵送調査というシステムをつくりました。病院から注文を頂きましたらゲル線量計を送り、病院の担当者が照射。続いて当社が提携しているMRI施設に送って頂き、解析したら病院に結果を送る、というしくみです。これにより、病院の作業負担を軽減することができ、現場でとても使いやすくなったと思います。 

―ところで、お二人はお住まいも柏の葉だとうかがいました。働く場所・住む街としての柏の葉をどのように感じていらっしゃいますか。

橘 理絵様:ちょうど10年くらいにアメリカから帰国することになり、Googleのストリートビューで柏の葉公園の前の通りや駅前を見て、自然にあふれた美しい雰囲気がとても気に入ったんです。
以前は都内に住んでいたこともありましたが、子育てがとても大変な環境でした。柏の葉には複数のお子さんを連れた、子だくさんのご家族が多いという印象があります。それだけ住みやすく、子育てもしやすいのかなと思います。歩道も広くて、通学路が安全なのも良いですね。

橘 英伸様:この秋にラグビー校が開校したら、また街の雰囲気も変わるでしょうね。教育レベルが上がれば、治安も良くなる。また、最近色々な企業も来ています。人が入ってきて経済が回ると、街づくりもさらに進んでいくだろうと期待しています。

橘 理絵様:ビジネス環境としては、先日開催された柏の葉で活動しているライフサイエンス領域のプレイヤーの交流会「コウリュウノハ」で、多くの関係者と知り合えたのはとても良かったです。それまでは東葛テクノプラザに「同居」している企業さんとの交流も少なかったんですが、「コウリュウノハ」をきっかけにコネクションが持てて、その後訪問したりしています。

―そう言っていただけると嬉しいです。交流や共創促進の取り組みは、今後も色々やっていく予定ですのでぜひご参加ください!
では最後に、今後の事業展開について教えてください。

橘 英伸様:今までは夢の夢だった国際展開について、先日、国立がん研究センター・トライアングルプロダクツ・某企業・某国際機関で、ある秘密保持契約を締結しました。その国際機関で利用されれば、海外展開されやすい。もちろん海外で信用を得ると日本でもより普及が進むのではと思っています。
トライアングルプロダクツの外照射用ゲル線量計は日本オリジナル。「Made in 柏の葉」で世界に出していってもらいたいと思っています。

橘 理絵様:トライアングルプロダクツの製品を使って品質管理をすることで、病院は医療を安全に患者さんに提供でき、患者さんは安心して放射線治療を受けられるようになります。そしてそれが広がれば、当社も安定的に経営できる。この循環を実現して、地域・社会に貢献していきたいと思います。

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