お問い合わせ

TOPICS【ハツメイノハ2023優勝者 石橋健次さんインタビュー】「柏の葉でなら、住民の皆さんと一緒にテストしてデータを取っていける。この環境でなら、やりたいことができるのではないかと思っています。」

SCROLL

「柏の葉イノベーションフェス」の一環として行われている、柏の葉スマートシティを舞台にしたビジネスアイデアのコンテスト、ハツメイノハ。第2回となった2023年は、多くの応募者の中から選ばれたファイナリスト5組が23年10月29日にファイナルを戦い、位置情報ゲームアプリを通じて市民の防災意識を高める事業をプレゼンした「災害モンスター研究所」が優勝しました。
この事業の内容や今後の計画について、同事業を展開する石橋健次さんにお話を伺いました。聞き手はUDCKタウンマネジメントの金田昂です。

 日本は災害大国ですが、災害対策は私たちの想像以上に遅れています。そこで「ゲームで防災力を高める」ということを思いつきました。

―このたびは優勝おめでとうございます!まず、石橋様の経歴について教えてください。

私は新卒で製薬会社に入社いたしまして、現在社歴27年目になります。最初は東京下町のクリニックに医療用医薬品の情報提供をする営業職から始まり、消化器内視鏡に用いる医薬品のプロダクトマネージャー、プロモーション資材の制作・校閲部署といったプロモーションに関わる業務を担当しておりました。その後、コンプライアンスの推進や、リスクマネジメントの部署を経て、3年前から総務部で災害などの危機管理やBCP(事業継続計画)を推進する担当者として働いています。弊社従業員への災害対策教育の効果を高めるために様々な情報に触れたことが今回の事業内容の着想に繋がっていきました。

―元々温めていた事業内容でハツメイノハに応募されたのですか?

同時並行、という感じでした。
実は、今年(2023年)の4月に、会社が副業解禁になったんです。同じタイミングでちょうど3人目の一番下の子供も中学生になり、5年間務めたPTA会長からも退任できたので、何か新しいことができるのではないかと思いました。ただ私ももうすぐ50歳になるので、収入を増やすためだけに貴重な時間を使いたいとは思いませんでした。ちょうどその頃、業務の専門性を高めるために受講していた東京大学の災害対策トレーニングセンター(DMTC)の授業で触れた日本の防災の現状に強い危機感をいだきました。日本は災害大国ですが、災害対策は私たちの想像以上に遅れています。今後30年以内に70%の確率で発生すると予測されている首都直下地震や南海トラフ地震の想定被害は凄まじく、日本社会の存続を危うくする国難級災害です。災害対策には国や自治体の役割が重要ですが、しかし、自治体が全部できる時代、自治体にすべてをお任せするような時代ではありません。残念ながら今の日本にはそれだけの経済力・国力がもうありません。官民学…柏の葉では公民学ですね、みんなが力を合わせて進めていかなければ間に合わないとの思いを抱くようになりました。
そんな折、DMTCで一緒に災害対策を学んでいた友人から一般社団法人 防災教育普及協会が7月に開催していた「防災クイズ&ゲームDay2023」に誘われたんです。そこで「防災をゲーム化する」という発想に刺激を受け、今回応募した事業アイデアが固まっていきました。
それくらいの段階まで来て、このアイデアをさらに固め普及させていくためには多くの方に知ってもらうとともに、協力者や仲間を集める必要がある、そのためにはビジネスコンテストに参加して世間に広く発信するのが一番効率が良いのではないかと考えました。そこで多くのビジネスコンテストの情報を集めて紹介しているサイトを検索して、ハツメイノハを見つけた、という次第です。

―ハツメイノハを選んだ理由は何でしたか?

昨年のコンテストの様子をYouTubeの動画で見ることができて、イメージしやすかったのは大きいですね。なによりも柏の葉スマートシティという実際の街のフィールドがあって、住民の皆さんと一緒にテストしてデータを取っていけることがとても魅力的でした。この環境でなら、やりたいことができるのではないかと。それでさっそく応募しました。昨年の傾向や今年の審査員の方々の顔ぶれを把握し、審査員の方々の「ツボ」を想像してアジャストすることで、今回の事業アイデアを固めていったんです。審査員の方々が多彩であったことが、それまで私の独りよがりだったビジネスアイデアを多方面から社会のニーズにより合致させることに役立ちました。また私のアイデアのコアが「エンタメ」であるためプレゼン自体も「エンタメ」として成立させたい、そうでなければ説得力を生み出さないと考え、司会や審査員を務めてくださった芸人さん方のお笑いネタを盛り込むことにも挑戦しました。おかげでプレゼン時間を5分間に収めるのが大変でした(笑)。

今までの防災教育って、真面目過ぎると思うんです。キャラクターが魅力的な、面白くて夢中になれる防災ゲームをつくりたい。

―あっ、審査員の方々を想定して事業アイデアを固め、資料を作成したんですね!石橋さんのプレゼンがすごく面白かった理由がわかりました。
では、あらためて今回の事業プランを教えてください。

はい。これは「災害モンスター」というオリジナルキャラクターを使った位置情報ゲームです。位置情報ゲームとは、有名なものに「ポケモンGO」などがありますが、特定の場所に行くとスマートフォンのアプリにキャラクターが現れる、といったものです。
今回構想しているゲームでは、現実の世界で災害時にリスクのある場所に行くと、その災害リスクをキャラクター化したモンスターが出てきます。例えば水の氾濫が想定される場所では水で攻撃してくるモンスター、ガラスが割れそうな場所ではガラスで攻撃してくるモンスター、というような具合です。この災害モンスターは現実の災害リスクを回避・軽減する適切な行動や防災アイテムを使うことで倒すことができるため、ゲームで遊ぶことで災害リスクへの対応方法を学ぶことができます。また、「この場所に来れば災害に対応できる」という場所、たとえば避難所や、消火器、AED、備蓄品があるような場所に行くと、災害モンスターに対抗できるアイテムをゲットすることができます。
ユーザーはこのゲームでの体験を通じて、どのようなリスクがどのような場所にあるのか、そしてどう対応すれば良いのかを学ぶことができ、実際の災害に対する防災力を高められるというわけです。更に住民が街の中で発見した新たなリスクは、AIのサポートにより発見者オリジナルの災害モンスターとして創造することもできます。

―とても面白そうです!

そう言っていただけると嬉しいです。今までの防災教育って、真面目過ぎると思うんです。先ほど申し上げた「防災クイズ&ゲームDay」に出ていたゲームも防災教育としてはとても良くできており、じっくり時間をかけて遊ぶことで様々な災害対策を学び、疑似体験することができる優れたものがいくつかありました。ただ純粋にゲームとして見るともっと面白くできないか?生活の中の隙間時間で遊ぶことはできないか?と考えました。
ゲームの魅力を高めるには優れた「世界観」が有用です。この「世界観」に大きな影響を及ぼすのがストーリーやキャラクターなどのデザインですが、運が良いことに私が防災ゲームを考え始めた時期にちょうど生成AIのブームが来たんです。これなら絵心の無い私でもモンスターのイラストを描けるのではないかと。それでやってみたら、子どもたちが喜んで遊んでくれそうな、とても魅力的なキャラクターが創れました。これには私自身もビックリしました。そこから一気にアイデアが加速しました。

多くの方に届けて日本の防災環境を変えるためには、ビジネスとして広げることが必要だと考えています。

―ハツメイノハに参加して、柏の葉の街についてはどう思われましたか。

ハツメイノハのファイナルに向け、柏の葉のツアーをしていただいたんですが、まず防災のハード面で「この街、すごいな!」と驚きました。街全体をカバーする発電設備やエネルギーセンターなどがあり、街の開発時点からしっかり考えて作っておかないと後付けではできない対策が施されているのを感じました。また、ソフト面でも他の街にはない特長がいくつもありました。特に印象的だったのは三井不動産の商業施設の防災トレーニングセンター(三井不動産総合技術アカデミー)です。実際のエレベータで停止したときの対応を練習できたり、消火器を使ってビルの中で本物の火を消火したりできるんですよね。こうした災害レジリエンスの高い街でなら、開発もスムーズに進むのではないかと期待しています。

―では最後に、今後の予定や構想について教えてください。

今はまだ基本的なアイデアでしかないので、これから1つひとつ組み立てていかなければなりません。まずはWEB上でデジタルスタンプラリーが作れる既存サービスを活用してノーコードでプロトタイプを作成したいです。柏の葉の多くの皆さまに参加していただいて意見をうかがい、仕様を固めていければと考えているところです。
一方で、実際に手に取って触れる物理的な「モノ」があると学びのイメージが伝わりやすい面もあるので、トレーディングカードを使ったカードゲームの開発も併せて考えていこうと思っています。
位置情報アプリは開発や資金面でのハードルが相当高いというアドバイスもゲーム開発に詳しい方から先日いただきました。まだまだ活動を始めたばかりですので、より効果的効率的なツールに転換する可能性も排除していません。幅広く検討・検証していこうと思います。

こうした活動はボランティアでもいいんじゃないの、という声も聞きます。もちろん災害対策にボランティアの方々の活動はとても重要ですが、私はボランティアだけではダメだと考えています。防災教育をボランティアだけに頼ることはアウトリーチが弱く、コストパフォーマンスも悪くなりがちです。多くの方に届けて日本の防災環境を変えるためには、ビジネスの力を利用して大きく広げることが必要だと考えています。
「災害モンスター」は、最先端のテクノロジーではありません。それ自体には新規性も革新性もなく、多くの方に利用していただくことで初めて評価いただけるものです。そして防災は文字通り命がかかっていることなので、初対面の人、どこの誰か分からない人のものはなかなか使っていただけないと思います。柏の葉の、ビジネスプレイヤーと住民の距離が近いコミュニティの仲間に入り、一緒に活動をさせていただくことで、信頼関係を元にした事業開発を進めていくことができればとても嬉しいです。よろしくお願いいたします!

柏の葉スマートシティのソーシャルメディア

PAGE TOP