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TOPICS【千葉大学×三井不動産インタビュー:柏の葉キャンパスエリアの居住者の心身の健康評価 共同研究】「“暮らしているだけで自然に健康になれる街”はあり得るのではないか、それをデータで裏付けてみたい。」

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  • KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)
  • 柏の葉アーバンデザインセンター[UDCK]
  • 三井不動産株式会社

柏の葉では2021年度以来、エリア内の居住者の行動と心身の健康との関連について、千葉大学と三井不動産との共同による調査研究が行われています。この研究の目的や内容について、千葉大学予防医学センターの近藤克則教授、中込敦士特任准教授、三井不動産柏の葉街づくり推進部の増田大樹さんにお話をうかがいました。

「健康長寿」をテーマとしている柏の葉で、環境や行動と心身の健康との関連について長年にわたり研究を進めています。

―まずこの研究を始めることになった経緯と、研究の概要について教えてください。

近藤先生:私は、健康の社会的決定要因について調査研究を進めています。所得や人との繋がりなどの社会的要因の中で何がどのように人の健康状態に影響するのか、という研究です。その中で、もう10年ほど前のことになりますが「街の構造が歩行などの行動を変え『暮らしているだけで自然に健康になれる街』はあり得るのではないか」という仮説に出会い、『これは面白い、どこかにそんな街はないだろうか』と考えていたんです。そのタイミングで、柏の葉で「健康長寿」関連事業の担当をしている三井不動産の方と知り合う機会がありました。そこで、健康長寿をテーマに街づくりをしているのならそれを検証してみませんか、と提案したのです。そうして、すぐに調査をすることになりました。
こうした研究は縦断的に追跡して、時間による変化を見る必要があるため、一時点の調査では残念ながら明確な因果関係を証明することは出来ません。ですがその時実施した調査により、柏の葉住民のウェルビーイングに関する10年前のデータを、言わば「仕込んでおく」ことが出来たわけです。

増田様:そこから一気に時間が進んで、次に近藤先生にお声掛けしたのは2020年になります。柏の葉では2019年以来「柏の葉イノベーションフェス」という大きなイベントを毎年開催しているのですが、2020年のメインコンテンツとして企画したオンラインフォーラムへのご登壇を「健康」のエキスパートである近藤先生にお願いしたんです。

近藤先生:その際に、これもまたいい機会だと思い、「実は10年前に仕込んであるデータがあります。ぜひ縦断追跡調査をやりましょう」とご提案しました。
「暮らしているだけで自然に健康になれる街」はあり得るのではないか、という仮説をデータで裏付けるのは、スマートシティ的ですよね。データを上手に活用することで、住民のウェルビーイングを実現するために都市機能を高めよう、という取り組みですから。

増田様:今まで柏の葉ではUDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)を中心に健康への取り組みを色々とやってきてはいるのですが、それで住民が本当に健康になっているのか、どの施策が誰の何を改善しているのか、という見える化が出来ず、街としての成果を示すことが出来ていませんでした。ですので、まずは統計的な視点から成果を見える化したい、と近藤先生にお伝えしました。そして見える化が出来た際には、今度はそのデータを活用してウェルビーイングな街づくりの施策に活かしていければと期待しています。

柏の葉では公・民・学がそれぞれ異なる立場で「柏の葉をもっと面白い街にしたい」と思っているプレイヤーが集積しています。その効果が出始めているのだと思います。

―具体的な調査内容について教えてください。

近藤先生:共同研究が始まったのは2021年度です。最初に評価ロジックモデルを組み立てました。まず、ウォーカブルあるいは居心地の良い場所という「ハード」と、イベントへの参加・賑わいの創出などの「ソフト」というアウトプットがあると、初期アウトカム(結果・成果)として住民の外出や歩行量・身体活動量・社会参加が増える。すると、中間アウトカムとして、個人レベルでは社会的交流が増え、健康行動が改善、メンタルヘルス上のリスクも低下する。地域レベルではソーシャルキャピタルが自然に養成され、新たなコミュニティが創出される。そうすると最終アウトカムとして死亡率・要介護率が抑制され幸福感が増加する、つまり心身ともに健康・幸福な街が実現する。その結果、社会保障費用の抑制というインパクトを得ることができる、というモデルです。
そして、これまで3期にわたり様々な形で、このモデルが中間プロセスも含めて本当に存在しているのかどうか、それを調査してきました。

中込先生:2022年度からは、新たな調査方法としてESM(Experience Sampling Method)、経験サンプリング法という手法を用いました。これまでは基本的に郵送によるアンケートだったのですが、「その瞬間」の気持ちや行動を教えていただくためにLINEを活用したシステムをつくり、心地良いと思ったときにリアルタイムで教えていただくことにしたのです。そのことにより、その場所の特長を皆さんがどう感じているか、どういう風に心地良いと思っているのかというデータを集めることが出来ました。たとえば「こんぶくろ池は会話をしやすく感じる」「駅前のKOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)の周辺は顔なじみの人と会える」というようなデータですね。306人、988件のデータが取得できました。このデータをもとに、「こういう場所に行くとその瞬間の幸福感が高まる」とか、あるいはそういった経験の積み重ねが「人生に満足している」というような定常的な感覚に繋がるのではないか、といったことを確認し、順次論文化を進めているところです。

また、この調査をしていく中で、柏の葉には様々な資源(場所・コト)がありますが、情報が一元化されておらず、周知が行き届いていない側面があるということが分かりました。そこで次の研究では、LINEを使って柏の葉のイベント情報やおすすめスポットなどを発信し、そのことで行動・活動が変わり、幸福感が変化するのかということを調べました。この結果についても、直近での学会発表を目指して、いま論文化を進めているところです。

増田様:今まで私たちが感覚的に行ってきた街づくりが、学術的な知見として裏付けられるとすれば、こんなに心強いことはありません。いい結果が出ているといいんですが…(笑)

―今年度は、街のイベント情報アプリ「かわらの葉」を活用した調査も行うとうかがっています。

増田様:はい。「かわらの葉」は、昨年度の「ハツメイノハ」(柏の葉を舞台としたビジネスアイデアコンテスト)で優勝したアプリで、昨年は私が「ハツメイノハ」の担当もしていたので、これは親和性が高いのではないかと思い、紹介させていただいたんです。

中込先生:今回ご紹介いただいた「かわらの葉」は、柏の葉のイベント情報を一元化して住民の皆さんに届けるアプリです。私たちと同じことを地元の方がやろうとしている。従来の私たちのシステムでは掲載情報を研究員が一つひとつ集めなければならないのですが、地元に住んでいるわけではないですし、継続性にも限界があります。それであれば「かわらの葉」と組んだ方が良い。もうすぐ研究参加者募集が終わり、今後2か月くらいアプリを活用した調査をする予定です。「かわらの葉」ではユーザーがかなりスムーズに情報取得できるようになり、掲載するイベントも網羅的に増やせ、大幅にパワーアップ出来ると感じています。

近藤先生:こういうのを「クラスタの効果」と言うのでしょうか。柏の葉では公・民・学それぞれ異なる立場で「柏の葉って面白い」「もっと面白い街にしたい」と思っているプレイヤーが集積しています。それらがつながることで新しい価値が生まれる効果が出始めているんだと思います。そして公・民・学それぞれに視点・立場が少し違うのが良くて、たとえば「かわらの葉」のケースでは、住民の皆さんはそれを使いたい、事業者さんはビジネスにしたい。一方で私たちはデータをとって研究したい。三井不動産さんはそのすべてを活用して街づくりをしたい、という。そして柏市としては、この研究成果を一般化して柏市全域に広げたいという想いがあるでしょうから、さらに大きな成果になっていく可能性があります。そして、こうした多様なプレイヤーの皆さんがみんな「柏の葉LOVE」なのがとても印象的ですね。

住民、研究者、事業者などと一緒に、好循環を生むエコシステムを柏の葉エリアに創り出せるのではないか。そんな風に期待しています。

―では、最後にここまでの手ごたえや今後の目標について教えてください。

増田様:先ほど先生方からもお話いただいた通り、現在、これまでの研究成果を論文としてまとめていただいている最中です。今後、先生の学会発表や論文化を踏まえ、柏の葉としても対外的に発表していけるようになれば嬉しいです。

近藤先生:平成の研究は紙ベースで、アウトカムは健康でした。令和ではスマホなどICTという飛び道具も使って、健康の先にある「幸福」まで手を伸ばしている。「幸福な人を増やす」というところにまでバージョンアップしていると思います。

中込先生:経験サンプリング法では幸福を感じた瞬間までデータとして取得できますし、デジタルなので調査の頻度も上げることができます。今後は、「かわらの葉」の数千人規模のユーザーのアプリの使い方がどう変わっていくのか、また使うことにより社会とのつながり方はどう変わってくるのか、健康や幸福感はどうなっていくのか、中長期的に追って確認したいと思っています。

近藤先生:何千人規模という大きなデータになれば「30代女性」「60代男性」とクラスタごとに効果のある方法を明らかにして、よりパーソナライズされた支援策が出せ、そのフィードバックも得ることができます。そういう「リビング・ラボ」と呼ばれるような、住民、研究者、事業者などと一緒に、好循環を生むエコシステムを柏の葉エリアに創り出せるのではないか。そんな期待をしています。

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