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TOPICS日本初!電気自動車への走行中給電の公道実証実験 「電気自動車が小さなバッテリーで長距離走行できる世界を創り、多くの社会課題を解決したい。」

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現在、柏の葉スマートシティにて、日本で初めての『電気自動車への走行中給電の公道実証実験』が行われています。この取り組みの意義や内容について、東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志教授と清水修准教授にお話いただきました。

交差点の手前30メートルにワイヤレス充電の装置を埋めれば、走っているだけで充電量がプラスになります。

―まず今回の実証実験の目的について教えてください。

藤本先生:脱炭素が世界的な課題となる中、近年、電気自動車(EV)への移行が大きく進んでいます。新車の5割以上がEVという国も少なくありません。ただ、EVのさらなる普及にはまだまだ技術的課題も多く、その1つがバッテリー容量の問題です。
ガソリン車のように一度の「満タン」で700km走ることを可能にするには、バッテリー容量を増やさなければなりません。しかし、大きいバッテリーを積むと当然車両重量が重くなり、それを動かすために、より大きなバッテリーが必要になる…つまり、重いバッテリーを運ぶために重いバッテリーを使う、というようなジレンマに陥ってしまうのです。また、大きなバッテリーの製造・廃棄には膨大なエネルギーが必要で、資源リスクも高まってしまいます。それでは本末転倒です。

走りながら充電することが出来ればこの問題を解決できる、というのが私たちの基本的なアイデアです。現在、すでにスマートフォンのワイヤレス充電は実用化されており、使っている方も多いと思います。これの電力を少し増やして道路に埋めておけば、走りながら充電することが出来、とても小さなバッテリーで長距離走行が可能になります。

「すべての道路に充電装置を埋めるなんて出来るわけがない」というコメントをいただくことが多いのですが、実は、全走行時間の約25%の時間、クルマは交差点の手前30メートルの範囲に滞在しているというデータがあります。ですので、装置を埋めるのは交差点の手前30メートルだけで良いのです。これが実現すれば、走っているだけで充電量はプラスになるというシミュレーション結果が得られています。「時間やコストをかけてEVに充電する」ということの必要のない世界を創ることができるのです。

たとえば柏の葉キャンパスの駅前から東京大学までを10分ごとに往復するシャトルバスをEV化しようとすると、昼間は充電する時間が無いこともあり、100kWh以上の大きなバッテリーが必要です。しかし、交差点の手前30メートルと各停留所で充電出来れば、3kWh程度のごく小さなバッテリーで済む計算になります。
また、バッテリー製造量と走行抵抗の軽減により、温室効果ガスの低減も実現できます。

―それが実現出来たら素晴らしいですね!今回柏の葉では、どのような実証実験が行われているのでしょうか。

藤本先生:はい。これまで私たちは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「未来社会創造事業」の枠組みの中で、キャンパス内での実車走行実験により技術面の開発を進めてきました。今後これをさらに進め公道で実験するためには、様々な許認可等が必要になります。そこで、国土交通省の「現地実証実験」の枠組みも使うため、公民学連携の組織である「柏ITS推進協議会」の中に、私が部会長をつとめる「走行中給電公道実証作業部会」を新たにつくりました。今回の実証実験は、この部会を代表して柏市が、国土交通省が公募する「道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(社会実験)」に応募し、採択されたものです。2023年10月に始まり、2025年3月まで柏の葉キャンパス駅西口周辺の市道で実証を進めていく予定です。

この実証実験の技術上のポイントは大きく3つです。
まず、様々な車両に使える受電システム。私たちは電気自動車にもプラグインハイブリッド車にも使用できる受電システムを実現しました。
次に、標準化につながる送電システムです。送電コイルに常に通電をすると、送電コイルの上に車両がないときには無駄なエネルギーを使うことになります。この課題を解決するために私たちは、待機電力を極力小さくしながら車両検知を短時間で行う、新しい車両検知システムを開発しています。
そして3つ目が、高耐久性プレキャストコイルです。安全に使用するためには路面として十分な耐久性を持ちながら送電が可能なコイルの開発が必要です。私たちは、コイルと路面を一体化したプレキャストコイルの耐久性の検証を進めています。

現在、まずはSUVと10人乗りのバンの2台の車両を使い、基本的な技術の検証をしています。今のところ大きな問題はなく、小さな課題を1つずつクリアしていっているという状況です。

街全体にチャレンジしやすい環境、風土がある柏の葉だからこそ、実現できた実証実験だと思います。

―この実証実験は、とても多くの組織が参画する共創プロジェクトですね。その経緯について教えてください。

藤本先生:この構想は2013年くらいから私の頭の中にはありまして、当初は自分の実験室でミニモデルを使った実験をしていました。これは行けるのではないか、となって、2015年くらいから柏キャンパス内での実車を使った実験に移り、さらに2017年、先ほど申し上げたJSTの「未来社会創造事業」に採択され、本格化していきました。この段階では、以前から共同研究をしていた日本精工株式会社さん、東洋電機製造株式会社さんから派遣していただいた研究員と一緒に、5人くらいのチームで進めていたのですが、このあたりから大きな盛り上がりを見せ始め、その翌年、清水先生に特任助教として来てもらって、さらに研究パートナーを増やしていったというのが大きな流れです。

清水先生:最初は元々当校と繋がりのあった企業さんに参加のお声がけをしていましたが、実験の内容が少しずつ周知され、盛り上がってくるにつれて、企業さん側から参加のご要望をいただけるようになってきました。
今回の実証実験のリリースでは当校や千葉大学さん、三井不動産をはじめ11社に名を連ねていただいていますが、それ以外にも15社ほどの企業にご参加いただいています。

―実証実験のフィールドとしての柏の葉について、どのようにお感じですか。

藤本先生:先ほど申し上げた「柏ITS推進協議会」は、柏市、千葉県、経済産業省、国土交通省、東京大学、千葉大学に加え、大企業からスタートアップまで多くの民間企業が参画した、まさに公民学連携の取り組みです。残念ながら日本の社会では今回のようなチャレンジは受け入れられにくいのですが、こうした協議会がある柏の葉だからこそ、今回の実証実験が実現できたと思います。
また、街全体にチャレンジしやすい環境、風土があるのもとても大きいですね。行政のご理解もあり、様々な方々がそれぞれの立場で挑戦している街なので、私たちのチャレンジに多くのメンバーのご協力をいただき、スムーズに進めることが出来ました。

清水先生:今回特にチャレンジングだったのは、道路にモノを埋める実験だということですね。法律等で明確に規定されていない、想定されていないことが多く、慎重な検討や解釈による判断が必要となります。こうした点で、地方自治体である柏市さんとの距離が近いのは本当に助かっています。柏の葉のメリットを実感しています。

公共交通への導入から、自家用車も含めた充電インフラへ。さらに人材も育て、柏の葉を「技術も人も世界に出ていく街」にしていければと思います。

―では最後に、今後の目標や展望についてお聞かせください。

藤本先生:いま柏の葉では、自動運転と走行中給電の実証実験がそれぞれ別チームで進められていますが、いつかは統合したいと考えています。小さなバッテリーを積んだ自動運転バスが公道を走れるようになれば、運転手不足などを始めとするバス運行に関する社会課題を解決することが出来ます。まずは2025年までにこの実証実験で成果を出し、25年以降、これはまだ具体的なお約束ができる段階ではないですが、サービスとしてご提供できるようになることを目指していきます。
また、2025年の大阪万博でワイヤレス充電のEVバスを世界の人々に見ていただき、28年には関西地区の市バスで実装する計画も進んでいます。同様の取り組みを柏の葉でも進められたらいいですね。
そして、これはさらにその後の話になりますが、一般の多くの市民の方々にとって、EVの充電インフラ整備はとても関心の高い分野です。特に柏の葉には多くのアーリーアダプターがいらっしゃいますので、自家用車の充電ニーズにお応えできるようになりたいと思っています。これにはサービスを提供する事業者が必要ですので、ぜひユーザーとしての皆さまから、この技術を待ち望む声を多くあげていただければ嬉しいです。

清水先生:また、技術開発に並行して、EVを開発する人材も育てていきたいと考えています。これは教育機関である大学の責務でもあります。その一環として、例えばいま私は柏の葉T-SITEで小学生向けにミニ四駆を使ったワークショップを行っており、とても多くの方にご参加いただいています。こうした取り組みも進め、柏の葉を『技術も人も世界に出ていく街』にしていければと思います。

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