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TOPICS【アステラス製薬株式会社インタビュー】「柏の葉の皆さんと一緒に、すべての人が健康になれる社会、必要な人に必要な医療が届く社会を創っていければ嬉しいです」

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  • 三井リンクラボ柏の葉1
  • 国立研究開発法人 国立がん研究センター
  • アステラス製薬株式会社

2023年6月、日本を代表する大手製薬会社であるアステラス製薬株式会社さんが「三井リンクラボ柏の葉」に拠点を設置。最先端の空間バイオロジーを駆使したがん微小環境研究を進めるとともに、街・社会に向けたアドボカシー(社会課題の理解醸成・提言)活動を行っています。その目的・趣旨や具体的な活動内容について、イムノオンコロジーTMEリサーチヘッドの中尾慎典さんと、アドボカシー部コミュニティエンゲージメントグループリーダーの吉田宏之さんにお話を伺いました。
聞き手は、「三井リンクラボ柏の葉」で入居者の活動をサポートするサイエンス・コンシェルジュ、野村俊之です。

がんを完治させる薬を実現したい。革新的な新薬によって、多くの患者さんに希望を、市民の皆さんへ安心をお届けしたいと思っています。

―まず、「リンクラボ柏の葉」のオープンラボでどのような研究活動をされているのか、教えてください。

中尾様:はい。私たちが柏の葉にオープンした『TME iLab』は、がん微小環境研究のオープンイノベーション拠点です。この施設では、国立がん研究センターや、日本を代表する先端医療施設、アカデミアとのコラボレーションを通じて、難治性がんにおいて課題となるがん微小環境に関する新たな知見を獲得し、それをもとにしたイノベーションを創出することを目指しています。具体的な研究内容は、「がん微小環境の特性の解明」「有効な治療法を選択するためのバイオマーカーの特定」「新たな治療標的となる候補分子の同定」などです。この施設は、最先端の空間情報解析装置を備えており、研究者が自由に議論を交わし、研究を進める場として活用されています。

―がんの微小環境の研究というお話ですが、これが進むとどのような成果が得られるのでしょうか。あるいは、何を目標にされているのでしょうか。

中尾様:ここ数十年で、がんの薬の種類はとても増え、5年生存率も飛躍的に上がっています。しかし、がんが「死に至る病」ではなくなったかというと、残念ながらまだそうはなっていません。がんがなかなか完治しない一因としては、体内の特別な空間でがん細胞が守られてしまう現象があります。私たちはこの研究活動を通じて、がんを完治させる薬を創出したい。革新的な新薬によって、多くの患者さんに希望を、市民の皆さんへ安心をお届けしたいと思っています。

―それは、人類の夢の実現ですね。その拠点として柏の葉を選ばれたのはどういった理由でしょうか。

中尾様:当社は元々国立がん研究センターと連携しているので、柏の葉に拠点を持つことでがん研究センターと物理的に近くなれるというのが大きかったですね。さらに柏の葉には東京大学、千葉大学、産業技術総合研究所をはじめとするアカデミア・研究機関や、様々な企業が集積しています。今後そうした皆さんとの共創を進めていきたいと考えています。

―アカデミアの研究を企業側の事業上の成果に繋げるのには、難しさもありますよね。柏の葉での拠点設立は、その解決策としての意図もあるのでしょうか。

中尾様:そうですね。おっしゃる通りで、ポイントは2つです。
まず、最初から一緒にやる、研究を始める草案段階から共創していくことが必要です。そうすることで、最初から同じゴールイメージを持って進めることが出来ます。もうひとつは共創の進め方、シンプルに頻度ですね。何か月かに一度まとめて話し合う、というようなやり方だとなかなか話が進みません。お互いが物理的に近い場所にいて、実際に会いながら話す機会が頻繁に出来ることが重要です。
地理的に近接していることはとても大きなメリットだと考えています。

患者さんが必要とする最先端の医療・治療法がいつまでも受けられる社会になるために、「医療のエコ活動」を行っています。

―では次に、柏の葉で今後進めていくもう一つの活動、アドボカシー活動について教えてください。

吉田様:はい。私たちが市民の皆さんにお伝えしたいのは、新しい薬が持続的に生み出されることの価値です。
皆さんの実感としては、病院に行けばちゃんと薬は出るし、薬局もたくさんある。何も問題ないのでは、と思っていらっしゃるかと思います。しかし、実は今、欧米で生み出されている医薬品の72%が国内では未承認であり、必要な治療が必要な人に届かないドラッグ・ロスが懸念される状況となっているのです。

資料のご提供・ご説明でアドボカシー部 白ケ澤智生様にもご参加いただきました

―原因の一つが、医療費の問題ですよね。超高齢社会において医療の社会コストがどんどん増えていて、新薬の研究開発に影響を及ぼしている。

吉田様:その通りです。医療費の増大の影響で、国全体として薬に掛ける費用が抑えられ、新薬の研究開発に充てられるお金も減少しています。薬に限らず、治療に関わる人や医療施設等、医療資源全般に医療費増大の影響が及んでいます。ですので、患者さんが必要とする最先端の医療・治療法がいつまでも受けられる社会になるためには、私たち一人ひとりの健康増進などによって医療コストを出来るだけ低減して、必要なところにお金をまわせるようにしなければなりません。そのためには、国の政策を決める一部の方々だけではなく、広く市民の皆さんにこうした問題を認知いただき、社会的議論へと発展させていくことが必要です。医療費や創薬の問題(ドラッグ・ロスなど)を皆さんの普段の生活に引き寄せて、「自分ゴト」化していただく。こうしたコンセプトを「医療のエコ活動」と名付け活動されている同志社大学の瓜生原(うりゅうはら)葉子教授に共感し、私たちも協働させてもらっています。

―具体的にはどのような活動が「医療のエコ活動」になるのでしょうか。

吉田様:この問題に対して私たち自身が出来ることは、「防げる病気を防ぐ」ことと、「適切に医療を利用する」ことがあげられます。
病気を予防する、あるいは重症化を防ぐ。そのためには日頃の健康増進や感染症防止、そして早期発見・早期治療が重要です。また、たとえば「必要以上に多めに薬をもらっておこう」というようなことは普段多くの方がしがちだと思いますが、このような薬の料金はすべて社会コストになっています。私たち一人ひとりが意識と行動を少し変えるだけで医療資源の消費を軽減し、新たな薬や治療法の開発・提供に回すことが出来るのです。

公民学連携の街づくりが行われているサイエンスドリブンな街・柏の葉で、創薬研究とアドボカシー活動の両方を加速したい。

吉田様:こうしたことを分かりやすくお伝えするために、私たちはこれまで日本の創薬拠点の1つである川崎市で多くの活動を重ねてきました。地域のプロスポーツクラブや地元メディアにご協力をいただいたPR活動、市民団体による子育てイベントでの協業など、市民・企業・行政一体となった情報発信を進めています。
私たちの活動に共感してくれた地域の小中学生の団体が夏休みの特別授業に参加し、その授業からの学びを市長と対話しながら深めるラジオ番組の制作・放送をしてくれました。また、専修大学の学生が母校の高校生約600名に「医療のエコ活動」出張授業を実施してくれるなど、学生が主体的に情報発信をしてくれています。

今日とくに1つ、ぜひご紹介したいのが、こちらの絵本『ポーリーとナーミーのまほうのステッキ』です。あるとき私は、実際にドラッグ・ロスを経験したお子さんを持つ方と出会ったのですが、この方のご友人で音楽教室をされている方が、この問題を子どもやその親に分かりやすく伝えたい、ということで、お仲間とご一緒にこの「おんがくえほん」をつくってくれたのです。巻末のQRコードを読みこむと音楽付きの読み聞かせ音声を聴くことができます。こうした活動やツールを通じて、医療資源を大切に使うことの重要性を伝えています。

―手っ取り早く広めるにはネットやメディアが有効かとも思うのですが、リアルな場を使うことに意味があるのでしょうか。

吉田様:もちろんウェブサイトなどでもお伝えしていますが、やはり一方的な情報伝達、通知だけで、自分ゴト化していただくのは難しいですね。地域で、市民・学生・企業・アカデミアなど多様な皆さんと一緒に活動していくことで、日々の生活に落とし込まれ、そこで初めて、1人ひとりの意識の変化、行動の変容が起こっていくと感じています。

―場の力を活かした多様なプレイヤーの共創によるイノベーションは、柏の葉の得意分野です。今後ご一緒に様々な取り組みを進めていきたいと思います!

中尾様:ありがとうございます。公民学連携で街づくりを進めている柏の葉の地域コミュニティのちからで、医療費の抑制に街全体で取り組み、新しい薬づくりにお金が回るようにする。そして、その薬づくりにおいても、研究から社会実装まで出来る日本でも稀有なサイエンスドリブンの街である柏の葉の特長を活かしていきたいと考えています。柏の葉の皆さんと一緒に、すべての人が健康になれる社会、必要な人に必要な医療が届く社会を創っていければ嬉しいです。

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