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TOPICS「違う世界の話に思えるかもしれませんが、皆さんの日々のビジネスや生活の根本の部分でお役に立つ活動をしています。」科学者×アーティストの共創機会をつくる「ファンダメンタルズプログラム」とは

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  • 東京大学 柏キャンパス・柏Ⅱキャンパス・柏の葉キャンパス駅前サテライト

東京大学柏キャンパスにある「カブリ数物連携宇宙研究機構」。この組織で広報を担当している坪井あやさんは、科学者とアーティストを繋げて共創機会をつくる「ファンダメンタルズプログラム」を立ち上げ、運営しています。最先端の科学者とアーティストが共創する…直感的にとても面白そうなお話ですが、どちらも私たちの普段のビジネスや暮らしではあまり接点がなく、その両者が出会うと何が起こるのか、どんな価値が生まれるのか、なかなかイメージしにくいのも確かです。自らも本業の傍ら積極的にクリエイティブ活動を行っている三井不動産柏の葉街づくり推進部の奥野雅也さんが、坪井さんに詳しいお話をうかがいました。

「我々はどこから来て、どこに行くのか」という根源的な問いを、学問分野の枠を超えて追究しています。

―まず、坪井さんが所属されている「東京⼤学 カブリ数物連携宇宙研究機構(以下Kavli IPMU)」の概要と、坪井さんの業務内容を教えてください。

Kavli IPMUは、2007年に発足した組織で、数学・物理・天文学の研究者が世界中から集まってきて、「我々はどこから来て、どこに行くのか」という、昔なら哲学で扱っていた根源的な問いを、分野融合で解き明かすべく、研究を進めています。きわめて壮大な…逆に言えば普段の生活には全く役に立たない研究をしています(笑)。

私はここで広報部に属しており、講演会を実施したり、広報誌を作成したりという、多くの皆さまにKavli IPMUが進めている研究の内容をお伝えしてコミュニケーションを促進していく活動を主に担当しています。

―根源的な問いを分野融合で解き明かす…とてもワクワクします。

そうなんです、とてもワクワクしますよね!
Kavli IPMUでは、ファンダメンタル=基礎的・根源的な問いを追究しているわけですが、同じようなスタンスを持っている領域はほかにもあると思っています。それが、哲学や芸術です。

研究職の皆さんがよく言うのですが、高校までの勉強と大学以降とは全く違う、その違いは、大学では自分で問いを見つけなければならないことだ、と。高校までは「正しいとされていること」をひたすら受け入れるばかりだったのが、大学以降の勉強では「どこに問いがあるのか」「どう解釈するのか」と考えられるようにならなければならない。研究においては「良い問いを見つけるのが一番重要なこと」と、皆さん口を揃えて言いますね。

―ビジネスの世界で近年言われる「アート思考」も、それですね。問いをたてる、問いを見つけることから始める。

それを仕事として強力にやっているのが科学者であり、哲学者、芸術家ということだと思うんです。そして、それは私たちにとっても日常を送っていく中で色々なレベルで必要とされるし、かつ、とても楽しいことですよね。科学や哲学などの「役に立たない」学問も、そう考えると、実は「すごく役に立つ」んです。

科学者とアーティストは、トライ&エラーを繰り返して根源的な問いに向き合っているという意味でとても似ているんです。彼らを出会わせるべきだと思いました。

―そうした発想から、「ファンダメンタルズプログラム」を立ち上げることになっていくわけですね。

科学者とアーティストはすごく似ていると思います。科学者は、社会で発言を求められる場面では科学者としての役割を求められるために「1つの正解」を話すことが多いんですが、実際には膨大なトライ&エラーを繰り返しています。そして、「自分たちが今正しいと思っているものであっても、前提が1つ変わればその正しさは無くなってしまう」ということにきわめて自覚的です。それを前提とした上で、科学的正しさを語っています。

一方でアーティストは、端的に言うと「天才がパッと思いついて表現する」みたいに思われがちですが、多くの場合は全然そんなことはなくて、彼らもひたすら調べて、考えて、トライ&エラーを積み上げて作品を創っているわけです。そういう意味では、科学者とアーティストは表現の様式が違うだけなんです。

ですので、科学者とアーティストは出会わせるべきだ、と思いました。科学者とアーティストが素の人間として出会えば、きっとすごく話が合うし、話し合うことで自分の「輪郭」がくっきりしてくるだろうと。また、科学者とアーティストが同じ目線やマインドで活動しているのを一般の方々が見れば、科学やアートに対する社会の見かたも変わるのではないかと考えました。

―なるほど。このお話は、ビジネスにおける異業種間の共創においても参考になりますね!
では、「ファンダメンタルズプログラム」の立ち上げに至る経緯、活動の内容や成果について教えてください。

私は2009年にKavli IPMUに入り、当初はITスタッフとして業務をしていたのですが、2014年に広報へ異動となって科学と美術を繋ぐ活動を始めさせていただけることになり、翌年から3年間、アーティストが1ヶ月程度研究所に滞在し、研究者と交流しながら制作を行う「アーティスト・イン・レジデンス」を行いました。そしてその成果を発表する展覧会を2018年に行ったところ、羽田空港そばの他に何もない辺鄙な場所にも関わらず2週間で380名を超える方にお越しいただき、大成功となったんです。

これに手ごたえを感じ、より活動を広げるべく、科学技術広報研究会という、全国の研究機関や⼤学などの広報担当者が集まる互助組織に提案し、2019年にこういった活動を実践的に研究する部会を設立。さらに2022年に任意団体として「ファンダメンタルズ プログラム」を立ち上げました。

サイエンス×アートのプログラムで主流なのは作品を具体的に創ることを前提に工学系の研究者とデザイン系のクリエイターが協働するものですが、このプログラムは数学や物理など基礎科学の研究者と現代美術のアーティストとの交流がコアにあります。また、ラーニング的な意味合いが強いもので、なにかカタチがあるものが出来上がることは目的にしていません。あくまで交流の機会提供であり、制作資金を出すこともない代わりに、何かを創ることを要求もしていないんです。科学者とアーティストの間には共有しなければいけない情報や埋めなければならない溝がとてもたくさんあるので、成果が出るまでには時間がかかると思っています。5年後、10年後に「凄いものが出来た!」ということもあると思いますし、それでいい。アーティストは手を動かしながら考えるので、最終成果に至らずとも、プロセスの段階で何かが出てくる。それをこまめに社会と共有していくのが、私たちの活動です。
それを前提としたうえで、これまでの活動を通じて、絵画、インスタレーション、ワークショップから論文まで、大変刺激的で示唆に富む作品も生まれてきています。毎年展示会形式のフェスを開催していて、素晴らしいイベントに育ってきています。

[ファンダメンタルズプログラム公式サイト https://www.fundamentalz.jp/

2023年12月に東京大学駒場博物館と駒場小空間で開催したフェス。12日間に約900名が来場した。写真は駒場小空間。撮影:⻄村伊央

日々の生活の中で自然にこうしたプログラムに触れられる機会をつくりたい。柏の葉はそういうことが出来る街なので、多くの皆さんとご一緒できれば嬉しいです。

―活動の内容や意義がよくわかりました。「ファンダメンタルズプログラム」の今後の展望についてお聞かせください。

関わってくれているみんなと一緒にこの3年間すごくがんばったので、要件を満たしたプログラムは出来上がったと思っています。参加している科学者やアーティストはみんなとても幸せそうで、参加したいという方もどんどん増えています。ですので、今後はこれを現状に適応させつつ続けていきさえすれば良い。ただ、それが一番難しいんですよね。運営はみんな副業でやっていますので人的リソース確保の問題もありますし、活動場所、運転資金の獲得も必要です。今回の三井不動産の皆様とのご縁が良い例ですが、手探りで多方面の協力を仰ぎ、サスティナブルな仕組みをつくっていくのが喫緊の課題です。

―最後に、今後柏の葉でやりたいこと、または柏の葉に期待することはありますか。

このプログラムは、一見すると価値や面白さ、あるいは自分との繋がりが分かりにくいという面もあると思います。でも、科学者でもアーティストでもない私の実感として言うと、糸口さえ見つかれば必ず面白さを実感できるものです。たしかに、明日の買い物が効率的になる、というような種類の、日常のお役に立つものではないですが、毎日安定して過ごせるとか、日々の幸福度が高くなるとか、根本的な部分ですごく貢献できるものだと思うんです。

ですので、こういうものに触れるためにわざわざ遠くの街の展覧会に行ったりすることなく、日々の生活の中で、特別な目的や期待が無い状況で、自然にこうしたプログラムに触れる機会がつくれたら良いですね。特にお子さんや学生のみなさんに、あるいは子育て中の忙しい方々に、暮らしている場所のすぐ隣で気軽に関わっていただけるようになれば、と思います。柏の葉はそういうことが出来る街だと思いますので、多くの皆さんとご一緒できれば嬉しいです。

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