TOPICS【産総研柏の葉市民アドバイザー インタビュー】「産総研と市民がお互いに学び合いながらあるべき未来像に向かっていく。そんなコミュニティに出来ればいいな、と思って活動しています。」
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- みんなのまちづくりスタジオ
- 柏の葉アーバンデザインセンター[UDCK]
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- 国立研究開発法人産業技術総合研究所柏センター
- UDCK
日本最大級の研究機関、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下『産総研』)。国の機関として大学や大企業と協業しているイメージが強い産総研ですが、「産総研柏の葉市民アドバイザー」では、地域課題やこれからの技術のあり方について柏の葉の市民とともに考える活動を熱心に行っています。
この活動の趣旨や目的、内容などについて、産総研人間拡張研究センターサービス価値拡張研究チームの渡辺健太郎研究チーム長と、テクニカルスタッフの川﨑裕子さんにお話を伺いました。聞き手はUDCKタウンマネジメントの大山浩太です。
市民の皆さんに産総研のアドバイザーになっていただいて、ご一緒に地域課題やこれからの技術について考えていければと思っています。
―まず、「産総研柏の葉市民アドバイザー」が出来た経緯や目的について教えてください。
渡辺様:産総研柏センターは2018年に設立されました。その際に、柏の葉を拠点に「ソーシャルラボ」(地域に根差して研究開発を行う仕組み)をつくりたい、ということで、その活動の1つとして立ち上げたのが市民アドバイザーです。
産総研は設立以来、アカデミアや企業とともに産業における研究開発を行ってきましたが、現在産総研が進めている第5期中長期目標の中では、社会課題の解決に貢献するということを明確にミッションに掲げています。ただ、社会課題には様々な人や組織が絡んでいて、複合的な要因があります。産総研が革新的なすごい技術を開発できればすべてが解決するというわけではなく、社会と関わり合っていきながら共に解決に向かっていくことが必要です。ただ、産総研はこれまでどうしても一般の市民の皆さまと接点を持つことが苦手でした。そこで立ち上げた取り組みが、市民の皆さんに産総研のアドバイザーになっていただく「市民アドバイザー」です。産総研と市民、どちらかがどちらかに貢献するのではなく、相互に学び合うパートナーとしての関係を築きたいと思っています。私たちは最先端の技術をお伝えすることができますが、地域の方々が抱えている課題感や実情は把握しきれていません。そういった部分を市民の皆さんに教えていただいて、お互いに学び合いながらあるべき未来像に向かっていく。そんなコミュニティに出来ればいいな、という思いを持って活動しています。
[産総研柏の葉市民アドバイザー:https://unit.aist.go.jp/harc/advisor/advisor.html ]
ー今まで具体的にどんな活動をされてきたのでしょうか。
渡辺様:まず最初に、2019年の柏の葉イノベーションフェスの際、産総研柏センターの一般公開の一環として、市民の皆さんに柏の葉の魅力や課題を付箋に書き出してもらって「街の木」に貼っていただくという意見共有のイベントを実施しました。そのイベントで「実はこれから市民アドバイザーを始めたいんです」というお話をしたところ、多くの方に共感いただき、地域のことを教えていただく会を始めました。ところが、そのタイミングでコロナ禍になってしまいまして、進め方を検討しなければならなくなったんです。
ところで、市民アドバイザーを始めるにあたっては、研究プロジェクトごとに関心のある方に集まっていただく方法は有効ではないだろうと考えていました。課題ごとの集まりにしてしまうと、そのプロジェクトが終わると関係が切れてしまう。そうではなく、長くお付き合いをしていく中で一緒に地域のことを考え、解決策を探していく関係性をつくりたいと思っていたんです。
それを踏まえ、コロナ禍でどうやって活動しようか、と考えて、「バーチャルお茶会」を始めることにしました。内容は毎回様々で、テーマを決めて話す会もあれば、ざっくりとしたお話をするときもあって、宮城県の気仙沼とつないで「バーチャルツアー」を行い、その可能性を議論するというイベントを行ったりもしました。地域や生活の日常的な話題から、コロナ禍における新しいテクノロジーやコミュニケーションの在り方というようなテーマまで、市民の皆さんと一緒に考えてきました。
その後、コロナ禍が落ち着いたタイミングで、ミニスクール活動を始めることにしました。これは、もう少し踏み込んで産総研のやっていることを知っていただいて、そこから市民の皆さんと一緒に「あり得べき未来」を探索していこうという取り組みです。「デザイン・ミニスクール」と「テック・ミニスクール」の2つがあり、テック・ミニスクールでは私たちが先端テクノロジーの情報を提供して、それを元に未来の生活を一緒に考えていきます。デザイン・ミニスクールは、日常生活の中でコミュニケーションを円滑化したり課題を解決したりする方法を私たちから提示し、みんなでそれを活用してみる、というものです。
市民と共創するための環境や前提を整え、皆さんと一緒に「あり得べき未来」を考える活動を、様々な機会を捉えて常に行っています。
渡辺様:さらに、特定のプロジェクトに根差した活動の例としては、UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)の「みんなのまちづくりスタジオ(以下『みんスタ』)」の一環として行った、近未来住宅のビジョン構築の取り組みがあります。先端テクノロジーを使った高齢者向けの住居の研究を、元々産総研の内部プロジェクトとして進めていたのですが、プロジェクトの代表や担当者の想いとして、単にテクノロジーを集めた住宅をつくるのではなく、高齢者の希望やニーズを把握してそれを叶えるものにしたい、という気持ちがありました。それならば市民アドバイザーも含め、市民の皆さんと一緒に考えた方がいいだろうということで、「みんスタ」を活用して行うことになったのです。高齢者の問題は高齢者本人だけではなく、支える方やこれから高齢者になる方、みんなの問題です。「みんスタ」のスキームを活用することによって多世代の方に未来の高齢者の暮らしや生活環境のビジョンを検討いただくことが出来ました。その結果はオープンなレポートとしてまとめさせていただいたほか、そのレポートの内容を元につくばで作っている実験住居にも反映するなど、継続的な研究活動に活かしています。
川﨑様:最近では、モビリティやヘルスケアなど様々な領域での産総研の研究を分かりやすくお伝えしてその使い方を一緒に考える、というイベントを2か月に一度くらいのペースで続けています。
渡辺様:このようなかたちで、市民と共創するためのインフラ=環境や関係性を構築して、皆さんと一緒に未来を創っていくための活動を、様々な機会を捉えて常に行っています。
研究者はコンセプトを語ることが得意で、市民の皆さんは日常に根差した視点からユースケースを示せる。地域の皆さんと一緒に未来を創っていきたいです。
―先日開催されたイベント、「オープンデータでできること:交通事故マップを活用した安全な街づくりの可能性」も、とても興味深いものでした。
渡辺様:先ほどお話した近未来住宅編の開催以来、「みんスタ」の事務局にも関わらせていただいているのですが、その活動の中で、柏地域を拠点にシビックテックの活動をされている「Code for Kashiwa」さんが地域の交通事故マップのデータを作成されていると聞きました。ちょうど私たちもオープンデータを次の市民アドバイザー会合のテーマにしたいと思っていたところだったので、これは良い機会だと。最高のタイミングで私たちが考えていたテーマと柏の葉の事例が結びついたんです。ラッキーでした(笑)
イベントでは、まず産総研から「オープンデータとは」という解説をさせていただき、それを踏まえて、Code for Kashiwaさんが柏市・UDCKと連携して開発している交通事故マップを実際にみんなで見て、活用方法などを議論しました。いつも参加されている方々に加え、このテーマに惹かれた方々にも多くお集まりいただき、アプリの機能強化の方向性や街での活用方法のアイデアなど、参加者それぞれの視点から様々な意見が出て、とても盛り上がりましたね。研究者はコンセプトを語ることが得意で、市民の皆さんは日常に根差した視点からユースケースを示せる。今後に繋がる手ごたえを得ることが出来ました。
川﨑様:オープンデータをテーマにした第2弾も検討していますので、ぜひ多くの皆さまにご参加いただきたいです。
―では最後に、今後に向けた想いや構想についてお聞かせください。
渡辺様:ここまで活動してきて、テクノロジーの話を強調すると参加者が男性に偏ってしまう部分があり、様々な意見を聞きたい、という点では少し課題を感じています。たとえばデザイン・ミニスクールの参加者は男女半々くらいだったので、やはりテーマの立て方によって集まり方がずいぶん違うんだなと。このあたりについては今後工夫が必要だと考えています。産総研の中だけでテーマを建てつけようとするとどうしても広がりに限界があるので、柏の葉の1プレイヤーとして、幅広く様々な枠組み・機会で連携して、地域の皆さんと一緒に未来を創っていきたいです。
川﨑様:もっともっと多くの方に参加していただきたいと思っています。柏の葉の他団体さんとのコラボ開催にも大きな可能性を感じていますので、今後さらに広げていきたいです。イベントの開催時間の設定も毎回悩ましいのですが、色々試していければ。
一般的には、それぞれが垂直に自分の研究を進めている学者の世界では、異分野融合は決して簡単ではないと思うんです。ですが、産総研では大部屋での雑談の中から新しいプロジェクトが立ち上がったりすることがあるんですね。産総研と柏の葉の「コラボ力」を活かして、「参加してみたいな」とうっすら思っていらっしゃるような方々に1人でも多く参加いただけるように活動していきたいと思います。皆さんのご参加、お待ちしています!
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