TOPICS【DNPのサービスデザイン・ラボ インタビュー】「イノベーティブな面白いものを世に出すのは大企業ではなく、こうした市民活動なのかもしれないですね。」
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- みんなのまちづくりスタジオ
- 柏の葉アーバンデザインセンター[UDCK]
- UDCK
大日本印刷といえば日本を代表する印刷会社ですが、近年は社会構造や市場の変化に合わせて事業の幅を広げ、「DNPグループは、人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」という企業理念のもと、「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントを打ち出し、自社の強みと外部のアイデアを組み合わせて新しい価値を創造するさまざまな活動をしています。
柏の葉スマートシティにおいても「サービスデザイン・ラボ」が、市民による脱炭素に向けた行動促進のプログラムを、UDCKとの共創によって進めています。
こうした活動の内容や目的、手応えなどについて、大日本印刷株式会社情報イノベーション事業部DXセンターDXデザイン本部サービスデザイン・ラボの山口博志部長と鈴木英恵様にお話を伺いました。聞き手は、UDCKで「みんなのまちづくりスタジオ(みんスタ)」を担当する八崎篤さんです。
「サービスデザイン」という手法の研究開発と実践を通し、事業や社会の課題解決のお手伝いをしています。
―まず、「サービスデザイン・ラボ」ができた経緯や目的について教えてください。
山口様:これは、実は私が会社に掛け合って発足したチームなのです。私は長い間、販売促進やイベント企画などのクライアントワークをする中で、「目の前のクライアントだけではなく、エンドユーザーに本当に喜んでいただくにはどうしたら良いか」を考え、ユーザー体験をデザインしてきました。近年、さまざまな社会課題が浮き彫りになるのを見る中で、デザインの対象をビジネスから社会課題にシフトしたいと思って会社に提案し、2013年に「サービスデザイン・ラボ」を立ち上げました。
私たちの活動内容は、大きく分けて3つです。
1つ目は、イノベーションや広義のデザインの方法論についての研究開発。これは学会ベースの活動です。
2つ目は、「サービスデザイン」の実践。知見を活かし、ビジネスの場で新しい事業やサービス・場の開発に携わり、コンサルティングやファシリテーションをおこなっています。
そして3つ目が、「サービスデザイン」の普及啓発活動です。大学などで教えたり、地域創生の活動の中で志の高い方々と一緒に活動していくことで、このメソッドを広め、世の中に貢献していきたいと考えています。
―一般にはなかなか耳慣れない「広義のデザイン」や「サービスデザイン」について、少し解説していただけますでしょうか。
山口様:「Design Thinking=デザイン思考」は、近年ビジネス周りでよく言われるようになりました。Designとは、De(否定)+Sign(記号)です。今までの常識を否定し、新たな意味付けを与える思考法を「広義のデザイン」と呼んでいます。
これを基本に、暮らしの中での多様な人と人、あるいは人とモノ・コトとの包括的な関係性を対象とするものが「サービスデザイン」です。
とはいっても、抽象的で少し分かりにくいですよね(笑)。サービスデザインによる社会課題の解決事例を1つ具体的に挙げると、山形大学とのプロジェクトがあります。
多くの自治体と同じように、米沢市では人口減少が課題となっています。山形大学に新入生が入学すると一時的に人口が増えますが、卒業すると減ってしまう。定住人口を増やすのは難しいにせよ、関係人口=地域と多様に関わる人々を増やすにはどうしたら良いだろうか。サービスデザインのメソッドを用いてこの課題の解決に取り組みました。米沢市では従来、山形大学の新入生を対象に観光ツアーをやっていたのですが、このツアーの中身をリデザインし、「米沢オモシロ調査隊」として、米沢にしかいない面白い人たちとつながることができる体験に変えたんです。実際米沢には、元CAの里山ソムリエに取り組んでいる方や、サウナ×落語で温泉地を活性化しようと挑戦している方など、面白い方がいっぱいいるんです。そういう魅力的なイノベーターとつながっていただく機会を提供することにしました。ツアーへの期待を醸成し、能動的に参加してもらうために、また偶然の交流が生まれやすくするために、さまざまな工夫も重ねました。その結果、参加者の92%がツアー後も出会った大人たちとのつながりを積極的に持ちたいという意向を示し、具体的な行動変容にもつながったのです。
私たちは、こうした活動をさまざまな場所、領域で行っています。
[サービスデザイン・ラボ WEBサイト:https://lp.dnp.co.jp/servicedesignlab/]
自発的に行動したくなるような仕掛けをデザインすることで行動を促し、持続的な行動、習慣形成を支援します。
―柏の葉の街づくりに参加していただくことになった経緯や、柏の葉でのこれまでの活動について教えてください。
山口様:2023年3月のサービス学会で京都大学に行き、研究成果の発表をしたのですが、その時に柏の葉で活動していらっしゃる産業技術総合研究所の赤坂文弥さんにお会いしたんです。意気投合して、何か一緒にやろうよ、となり、それで柏の葉をご紹介いただきました。山形大学とのプロジェクトのような公民学連携による実践を柏の葉でもやりましょう!と。
それでUDCKに伺ったところ、ちょうど脱炭素に向けた市民レベルでの取組みを促進するプログラムを考えていて、なかでも行動変容を課題に感じているとのことで、一緒に何かできませんか、とご相談いただいたのです。これはまさに私たちのメソッドが一番活かせる領域なので、ぜひ、今すぐやりましょう!となりました。
私たちが生活している中で、やった方がいい、あるいはやらなければならないと分かっていてもなかなか行動に移せない、続かないことって、いろいろありますよね。宿題だとか、ダイエットだとか、禁煙とか。省エネもその典型的なものかもしれません。人は誰もが挫折しがちです。私たちは、認知科学・行動サイエンスとの連携により、デザインの力で行動変容/習慣化を促すオリジナルのメソッドを持っています。そこで、柏の葉でこのメソッドを活用できればと思い、「みんなのまちづくりスタジオDeco活編〜地球にやさしいまちの行動をデザインする〜」にジョインすることになりました。
―そのメソッドについて、ここで簡単に教えていただけますか?
山口様:人間が合理的ではない判断や選択をしてしまうクセを「認知バイアス」といいます。例えば、買うつもりがなかった食品を試食したらつい買ってしまった、という経験は多くの方がお持ちだと思いますが、これは「相互応報的行動原理」といいます。人は恩を感じるとお返しの行動をする、逆にひどいことをされると、こちらもそれなりの対応をする。こういうバイアスがいくつかあるんですね。
この「認知バイアス」を利用して、人が望ましい行動をするように、そっと後押しするアプローチのことを「ナッジ」といいます。自発的に行動したくなるような仕掛けをデザインすることで、人の行動変容を促す手法です。
まず、取ってほしいアクションを設定し、次になぜその行動をやらないのか、行動障壁を診断します。その上でその障壁を取り払い、行動を自然に促すデザインをする。この3段階のプロセスによって、一時的な認知や行動喚起だけでなく、持続的な行動、習慣形成を支援します。
―初めて聞いても非常に腑に落ちるというか、納得感がありますね。「みんスタ」では具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。
鈴木様:全4回のプログラムのうちの3回目にワークショップを行いました。フードロス解消、服のリペア、リサイクル、ゴミ拾いの4つのテーマごとにチームを編成し、それぞれテーマに沿ったエコ活動を継続的に行えるようにするデザインアイデアを出し合うのですが、その際、アイデアが抽象的なものになったり実効性がないものになるのを避けるため、あらかじめ柏の葉の施設や設備などをカード化して用意しました。私たちはこうした行動変容を促すワークショップの際に認知バイアスを種類ごとにカード化した「DNPナッジカード™」でアイデア発想を促します。今回は発想したアイデアに「かけだし横丁」「ららぽーと」「AIカメラ」といった施設や設備のカードを組み合わせることで、その場を起点に何をするか、何ができるか、という柏の葉での具体的なアクションのアイデアを出せるようにしたのです。
結果、非常に多くの実現可能性の高いアイデアが出ました。とても手応えのあるワークショップになったと思っています。この9月からは、「みんスタDeco活編」の第2弾が始まっています。第1弾で生まれたアイデアが実装に向けてどのようにブラッシュアップされるか、とても楽しみです。
柏の葉での本格的な活動はここからです。具体的なアウトプットを街に創り出していきたいですね。
―では最後に、これまでの柏の葉での活動の感想やご評価、そして今後の構想などをお聞かせください。
山口様:柏の葉は「人」が素晴らしいと思います。地域でこうした活動をする際、共感を持って伴走していただけるパートナーに出会うのが一番難しいのですが、UDCKの皆さんは「聞く耳」をお持ちでご理解いただくのも早く、しかも話だけで終わるのではなく、具体的なところまでやり切る。パートナーとして信頼関係が築ける方々です。また、市民の皆さんも社会課題に対する関心が高く、私たちのプログラムのような少し分かりにくいテーマにも多くの人に集まっていただけます。とても活動しやすい街だと思っています。
今はまだ1回ワークショップを行っただけですので、本格的な活動はここからです。ワークショップでアイデアを出すだけではなく、そのアイデアをもとにした具体的なアウトプットを街に創り出していきたいですね。
ビジネスにおける新規事業開発やイノベーティブな取組みは、失敗する確率も高いものです。投資判断も難しく、世に出すのはとても大変ですし、世に出たときには肝心のカドが取れてしまっている、なんていうこともあると思います。でも、この柏の葉でのUDCKさんとの取組みは、ビジネス目的ではないからこそ、まず「やってみる」ことができるんです。個人的には、そこに手応えがあります。すごく面白いものを世に出すのは大企業ではなく、こうした市民活動なのかもしれないですね。
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