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TOPICS【共創事例:企業×アカデミアによる新規事業開発】 大林組×植物工場研究会 インタビュー

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千葉大学柏の葉キャンパス内に、日本を代表する植物工場の研究・開発機関「植物工場研究会」があります。ここには世界中から多くの企業が集まり、植物工場を自社の新規事業とするための活動を行っています。最先端の知見を活かした民・学連携による新規事業開発は、オープンイノベーションの理想的な事例と言えるのではないでしょうか。
その実際について、株式会社大林組ビジネスイノベーション推進室の諌山太輔さんと、特定非営利活動法人植物工場研究会の林絵理 理事長にお話をうかがいました。聞き手は三井不動産柏の葉街づくり推進部の保住香林です。

生産~販売を重ねながらプロセスごとにフィジビリティスタディをし、事業化するための実践的な活動をしています。

―大林組さんと言えば日本を代表する大手ゼネコンとして有名ですが、なぜ一見無関係とも思われる植物工場に取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

諌山様:社会環境の変化やテクノロジーの進化が激しい近年、当社も建設だけでは永続的な成長は難しいと考え、事業領域の拡大・深化、新規事業の開発に取り組んでいます。建設を通じて社会インフラを支えてきた企業として、「MAKE BEYOND  つくるを拓く」を合言葉に、水産(養殖)、エネルギー(発電事業)、情報インフラ(データセンター)など各領域のインフラ事業の開発を進めており、農業への取り組みもその一環ということになります。「食」は最も基本的で大切なインフラです。植物工場を通じて未来の農業を創っていきたいと考えています。

林様:前回のインタビュー(https://www.kashiwanoha-smartcity.com/info/topics/39/)でも申し上げましたが、閉鎖的な人工環境で作物を育てる植物工場には、農薬が不要で安全な作物がつくれる、重労働が必要ないので高齢者や障がい者も含む多様な方の就労が可能になる、環境負荷を減らせる、といった社会的価値もあります。SDGsやESG投資などへの取り組みが企業の重要なイシューとなっている現在、新規事業としての植物工場にはそうした意義もありますね。

―では、大林組さんの実証棟の概要とこれまでの活動内容について教えてください。

諌山様:10年以上の基礎的な研究を経て、ここに実証規模の植物工場である「モデル棟14号」を建設し、本格的に活動を開始したのが、2020年10月です。工場設立にあたってはいくつか自社の候補地を当たったのですが、都内から2~3時間かかる場所しかありませんでした。
そこで、以前からお世話になっていた千葉大学や植物工場研究会にご相談した結果、大学敷地内(柏の葉)に植物工場を建設することに賛同していただきました。
柏の葉でしたら、都内のお客様や海外の方にもすぐに見に来ていただけます。また植物工場研究会では他の事業者の皆さんと情報交換できるのも魅力的で、大学の先生の知見を気楽に聞けるのも大きなポイントでした。

ちなみに、植物工場には大きく分けてこのモデル棟のような人工光型とハウス・温室による太陽光型の2種類があるのですが、太陽光型についてはこれより以前、2014年から千葉県香取市でミニトマト栽培に取り組んでいまして、現在はインドネシアでの事業展開を目指して現地での実証栽培を続けているところです。
このモデル棟も、研究だけではなくあくまで事業化を前提とした実証、トライアルを行うことが目的です。ですので、実験室やチャンバーのような小さなものではなく、事業ベースに乗る大型植物工場の1/20のモジュールという概念でつくりました。このモデル棟の栽培室が20個並ぶと本格的な植物工場になる、ということになります。
ただ、この工場は事業化に向けてトライ&エラーを重ねていきますので、様々な機械を入れたり設備改変が出来るよう、比較的ゆったりとした配置になっています。

ここでは基礎的な研究から販売まで、1つひとつ事業を組み立ててきました。種を植える工程、苗の成長に伴って移動させる「移植」の工程から、収穫後のパッケージングに至るまで、プロセスごとに技術・機械を開発し、フィジビリティスタディをしています。コスト・収益性を重視し、企業が事業化するための実践的な研究をしています。
中でも「自動化」は大きなテーマです。植物工場において一番のコスト要因である人件費の削減のため、「超省人化」を目指しています。超省人化により生産効率もあがり、製品の均一性も保て、コストダウンにもつながります。この実現に向け、取り組みを続けています。

―現在では様々なところでこちらの植物工場の野菜が販売されていると伺いました。

諌山様:そうですね。ゼロからスタートしてもうすぐ3年になりますが、最初はなかなか販売できるようなきれいな野菜はつくれなかったんです。しかし今では安定的に生産し、色々なところに出荷しています。主に大手居酒屋チェーンなどのサラダやスーパーのお惣菜などに使われているので、「これが大林組の植物工場の野菜です」というようには分からないことも多いのですが…皆さまにも分かりやすい小売りのチャネルとしては、柏の葉でしたら「ららぽーと柏の葉」の東急ストアや「イオン柏」のわくわく広場で販売していただいています。それとこれは横浜の地域限定になってしまうのですが、「まるしぇりー」という、横浜中央卸売市場の野菜をご自宅までお届けするサービスで取り扱っていただいています。
主な商品は、フリルレタス、グリーンリーフ、バジル、イタリアンパセリです。その他の新しい野菜の商品化にもチャレンジしています。

植物工場研究会では、企業がアカデミアとともに市民・消費者に近いかたちで「実学」に取り組むことが可能です。

―林様、こうした大林組さんの活動について、植物工場研究会としての受け止めを教えてください。

林様:大学、企業、研究者が関わって研究開発から販売までしているという大林組さんの取り組みは、私たち植物工場研究会の仕組みや理念を体現された素晴らしいものです。また、ここでは多くの企業が自社の目的に沿って施設を活用しているのですが、大林組さんは施設づくりがご本業ということで、キャンパス内に立派な建物を作って下さったので、それもありがたいですね(笑)。ワークショップや研修会などで大林組さんの工場を見学でき、話を伺えるのもとても助かっています。

私たち植物工場研究会では、企業がアカデミアとともに市民・消費者に近いかたちで「実学」に取り組めるのが最大の特長です。
たとえば先日、柏の葉の街づくり組織「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)」の市民交流イベントで私たちの活動を紹介させていただいたんですが、ここで大林組さんの野菜を展示して、参加者にお持ち帰りいただきました。そうしたら後日、「みずみずしくてとても美味しかった」という内容のメールをいただいたんですね。こうした、多くの方に体験・体感していただいてそのフィードバックを事業に活かしていくという循環も生まれてきています。
植物工場研究会にとって、大林組さんの活動はとても心強く有難いものです。同じように、私たちの研究活動・普及活動が今後も大林組さんのお役に立てればと思っています。

―ユーザーさんの感想を直接いただけるのは嬉しいですよね。だいぶ以前、植物工場の野菜は食感に課題がある、というようなお話を聞いたことがあるのですが、現在では進化しているのですね。

林様:そうなんです。しっとりと柔らかく、とか、パリッとした食感で、など、ご要望に合わせて作り分けることが可能になっています。スープやしゃぶしゃぶなどで火を通してもシャキシャキのレタスもあるんですよ。イチゴやトマトなど別の作物でも同じように作り分けが可能です。
一般論として植物工場の野菜は、年中同じ品質で、日持ちも良く、洗わなくても良い、捨てる部分も少ないといったメリットがあります。作りたい野菜をつくるための環境をデザインできるので、食感だけではなく特定の栄養分が豊富な野菜などをつくることが出来るんです。総じて苦みやえぐみが少ないのも特長です。

諌山様:大林組では「野菜味」を強くしています。苦さやえぐみは抑え、野菜の味、旨味を濃くしています。畑の野菜の良さ、美味しさをしっかりと再現出来ていると思っています。

今まで以上に社会・市民の皆さんとの距離を近くして、植物工場の社会実装を加速していきたい。

―では、最後に今後の展望などについて教えてください。

諌山様:大林組としては、植物工場を自社単独での生産事業として展開するだけではなく、事業化を目指す企業を伴走支援する活動もしていきたいと考えています。大林組は建設の会社なので建物を立てたら終わりというイメージが強いかもしれないですが、建物はもちろん、生産、販売までを一気通貫でノウハウ提供してまいります。
また、最近は大規模開発プロジェクトの一部に植物工場を入れたいという声もいくつかいただくことがあります。建設会社として、都市開発や大規模宅地開発に植物工場を導入していければと思います。

林様:今まで積み重ねてきた取り組みの結果、植物工場の主要テーマは事業化=社会実装の加速という段階にまで来ています。私たちも柏の葉において、より社会・市民に近づいていきます。
この9月には、住むだけで健康を目指す柏の葉スマートシティで植物工場の国際シンポジウムを開催いたします。この数年はワークショップや研修会、10周年記念祭などのイベントを主にオンラインで開催していたのですが、世界中の植物工場関係者に柏の葉の街を知ってもらいたい、また柏の葉のみなさんに植物工場を知っていただきたいということで、柏の葉カンファレンスセンターを中心にリアル開催することにいたしました。ここでは諌山さんにもポスター発表していただくことになっています。これに合わせて、住民の皆さま向けのフェス「植物工場を知ろう‼@柏の葉スマートシティ」も開催予定です。植物工場の野菜を使った料理のご提供や植物工場ツアー、展示など色々な案が上がっていて、いま企画中です。ぜひ楽しみにお待ちください!

[JPFA植物工場国際シンポジウム 詳細はこちら]
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000123796.html
https://npoplantfactory.org/jpfasymposium2023/

また、すでに柏の葉の複数の飲食店舗さんが植物工場の野菜を使ったメニューを提供いただいています。こうした取り組みを増やすとともに、それを多くの方に知っていただく活動も強化していきたいと思います。柏の葉で料理コンテストなども開催してみたいですね。
それから、これは現段階では夢ですが、お洒落なカフェがつくれたらいいですね。気軽な対話のふとした一言が大きなヒントになることがありますので、アカデミア、事業者、市民が気軽に接点を持てる場所が作れるといいなあ、と。「お洒落な」が重要なポイントですね(笑)

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